22.エッセイ3 〜ロン・ハワードと家族の肖像〜

 

 ロン・ハワードの全作品が、首尾一貫して「家族」というモチーフを描き続けていることは、ここまでに書いてきた通りだ。

 そして、そのこだわりぶりは、作品テーマからだけでなく、キャスティングの点からも、見てとることができる。それがロン・ハワードの実父ランス・ハワードと、5歳ちがいの実弟クリント・ハワードの、ほぼ全作品にわたる出演だ。

 父ランスは、『バニシングIN TURBO』で、ロンと共同脚本を務め、息子のデビューをサポートしてもいるが、もともと息子を演技の道に導いたのは、俳優としてだけでなく舞台演出も手がけるランス自身である。ロン・ハワードの演技デビューは、実に1歳半のときで、ランスの演出する舞台版『七年目の浮気』であったそうだ。

 ロンの誕生前は、母親のジーンも舞台女優として活躍していたが、息子の誕生後は主婦業に専念。それでも撮影現場には、スタッフたちの食事を持参してふるまうなど、献身的に協力しているともいう。

 やがて弟のクリントも子役として活躍を開始。こうなるとまさに押しも押されもせぬ芸能一家である。それも今に至るまで変わらぬ絆で、父と弟がロンの作品への出演を続けているというのは、驚異的な結束力だと思う。

 だがそれにしても、「クリント」とは、何とも洒落た名前を持ったものだ。テレビシリーズ『ローハイド』の放送開始が1959年、そして出世作『荒野の用心棒』が1964年作品であるから、1959年生まれの彼が、クリントと名づけられたのはもちろん偶然だろう。しかし「ハワード」などという、ある偉大な映画作家ホークスの名を姓に持ち、イーストウッドというこれも偉大な映画作家の名を受け継ぐという、やはりこの兄弟はどこまでもアメリカ映画の申し子なのだ。

 さて、父ランスも弟クリントも、ロンの作品中で決して大きな役を持つことはほとんどない。いずれの場合もほんの端役で登場する程度なのだが、しかしどちらも覚えやすい容貌であるため、今回はどこに登場しているかを探すことは、ロン・ハワードの映画を観ることの、ちょっとした楽しみでさえある。

 本稿では、各作品のどこに彼らが出演しているかを逐一紹介することはしない。ちょうどアルフレッド・ヒッチコックが全作品に自分自身を登場させたように、ロン・ハワード作品のどこに彼らが姿を見せているか、映画を観るときの喜びとして、是非、発見にトライしてもらいたいと思う。

 

 同じ楽しみとして、ハワード家との血縁関係はないが、『バニシングIN TUEBO』で、ドラ息子のいかれた母親にパトカーを強奪されてしまう、迂闊な警官を演じるジェームズ・リッツも、ロン・ハワードのほぼ全作品に、いまだ登場し続けている。

 日本人でいえば、作家・ミュージシャンの中原昌也に、風貌も雰囲気もどこか似ているジェームズ・リッツは、ルックス自体が滑稽で、この人の顔を見るたびうれしくなる。『バニシングIN TURBO』を別とすれば、各作品での出演時間は1分にも満たない程度かもしれないが、ロンの監督デビューからずいぶんの年月を経ても、まだ健在であることが確認できると、なんだか安心する。

 彼もまた、ロン(ロニー)・ハワードのテレビ時代の作品『ハッピー・デイズ』の出演者の一人で、演技のタイプとしては、ビル・マーレーに近いだろうか。『ザ・ペーパー』でのわずかな出演シーンでも、思わず吹き出してしまうのだが、『アポロ13』でもきわめてシリアスなシーンのはずなのに、この人だけ「まったくもう、何だってんだよ!」といった表情を浮かべているところが、また痛快である。いずれもどのシーンかは、あえて詳らかにはしないので、本稿を読まれて興味を覚えられたらぜひ発見していただきたいと思う。

 

 さらにもうひとつ付け加えておくと、後に『ヴィレッジ』(2004 M・ナイト・シャマラン)で映画デビューし、『マンダレイ』(2005 ラース・フォン・トリアー)で大熱演を披露した後、再びシャマラン監督作『レディ・イン・ザ・ウォーター』(2006)で主演の水の精を演じ、どこか『スプラッシュ』への言及さえ感じさせた、ロン・ハワードの長女ブライス・ダラス・ハワード。彼女もまた『ビューティフル・マインド』ではまだ大学生の役で、初々しい顔をのぞかせている。これも注意して観ていれば、必ず発見できる場面での登場である。

 それにしても、ロン・ハワードの映画での一番大きな一貫性は、1本残らず家族作りの物語であるということだ。それはベストセラー小説の映画化にすぎず、物語構成にあってはハワードの手は一切入る余地がないはずの『ダ・ヴィンチ・コード』にあってさえ、変わらない。

 作品の内容と製作(キャスティング)の両面から、「家族」というテーマにこれほど徹底的にこだわった映画作家が他にいるだろうか。こうした点からは、ハワード家の実生活での良好な家族関係がうかがわれる。毀誉褒貶の激しい、ハリウッド人の家族構成にあって、かくも長きにわたって離婚やスキャンダルのひとつもなく、一貫した家族関係を保っていることが、そもそもの驚きである。

 そうした意味では、アメリカの理想的な家族関係を描いた、ロン(ロニー)・ハワードの原点である、子役時代のテレビシリーズ、『アンディ・グリフィス・ショー』や『ハッピー・デイズ』でのイメージを、そのまま地でいく稀有な例であるわけだ。

 

 これらテレビシリーズとの関連でいえば、『エドTV』でとことん悪く描かれた悪徳テレビプロデューサーを演じたロブ・ライナーは、実はもともと『ハッピー・デイズ』のライターあがりである。

 後に『スタンド・バイ・ミー』(1986)や『恋人たちの予感』(1989)、『ア・フュー・グッドメン』(1992)といった印象的な作品の監督となるロブ・ライナーだが、これはどうも『ハッピー・デイズ』のクリエイターであるゲイリー・マーシャルの身代わりとされたのではないか、と見るのも楽しい想像ではないだろうか。

 マーシャルもやはり、後に『プリティ・ウーマン』(1990)で大ヒットを飛ばす監督になるが、ともあれ悪役テレビプロデューサーの役として、自分のテレビ時代のスタッフサイドの人間を、今度は出演者として迎えるところに、ロン・ハワードのちょっと皮肉な、しかし温かい想いが透けて見える。

 さらにつけ加えると、ゲイリー・マーシャルの妹であり、『ビッグ』(1988)、『プリティ・リーグ』(1992)など印象的な作品を撮るペニー・マーシャルは、ロブ・ライナーと一時期婚姻関係にあったことの他、ロン・ハワード『シンデレラマン』の製作者の1人である。

 そして『スプラッシュ』でブレイクしたトム・ハンクスが、俳優としての地歩を完全に固めたのがペニー・マーシャル監督の『ビッグ』であり、一時期低迷しかけたキャリアが再起するきっかけとなったのが、ゲイリー・マーシャル監督の『プリティ・リーグ』であったことを、ついでにつけ加えておいてもいいだろう。

 

 最後に、2007年にブライス・ダラス・ハワードは長男を出産。ロンにとっては初孫である。さて、その子もやはりロン・ハワード作品で映画デビューを果たすのだろうか? ロン・ハワードと家族の肖像として、とてもささやかだけど、小さくはない楽しみが1つ芽生えているというわけだ。

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