ア・ウィッシュ・オブ・タナバタ






彼女の笑みは見えないが
僕には見える 見えない笑みが






「あー…雨降ってんな…赤丸…」
アカデミーから家に帰ろうとドアを開けると、外は雨が振っていた。
大粒の、それも結構な量の雨粒が大地に降り注いでいる。
まわりには迎えに来た母親も多く、母の持ってきた傘に入り帰路につく者もいた。

「…走って帰るしかねェか…」
フードの中に入っていた赤丸を抱きかかえると、ファーつきのフードを被った。
代わりに赤丸を服の中に入れた。
「…。でも結構降ってるよなあ…」
ボー、っと薄暗い空を仰ぐ。雨は一向に止む気配等なく、それも結構降っている。
この状態で走っていたとしても長時間雨に打たれていれば、風邪をひくだろう。

「…。風邪ひくのは嫌だしな…」
母も姉も来てくれはしないだろう。彼女らは忍者だ。今頃は任務の真っ最中だろうし。
「…赤丸ぅ…」
情けない声を出して、赤丸を見遣る。赤丸もくぅーん…と情けない声を出した。

「…キバはどうするってば」
右隣から沈んだ声が聞こえた。聞き覚えのある声。
「ナルト…」
気がつけばアカデミー前で立ち尽くしているのはキバとナルトだけであった。

「…。オレは走って帰ろうかと思ってんけど…」
「あーいいなそれ。オレもそうしようかな…」

ドスッと音がして、横を見ればナルトが座り込んでいた。

「…お前帰んじゃねーの」
「帰るってば。でもキバのアレ、一目見てから帰る」
アレ、と言いながらナルトは小指をたてる。アレ、とは恋人という意味だろう。

「はぁ…!?意味わかんね。アタマ打ったか?」



「キバー」
キバが言った一瞬程後、陽気な声が聞こえた。
キバは声の主を見ようと前を向く。
そこには、。ピチャピチャと音をたててキバの前にやってきた。

サン…」
「こんちは。元気?」
血のごとく赤い傘をさし、暗部の格好をして鳥の面をつけている女はニコリと笑った。
いや、笑ったかどうかはわからない。なんせ顔が隠れているのだから。


「…。誰?」


ナルトが素頓狂な声を上げた。



「あーっとねえ。私はってぇの。あんたナルトよねー」
「え!オレってば有名?」
「違うわよー。きゃはは」
嬉しそうに勘違いするナルトに、可笑しそうに腹を抱えて笑う。やはり顔は見えない。
「バカっ面してるからそうかと思ったのー。あっは思った通りのバカっ面ぁ」
鳥の面をつける女はまだ可笑しそうに笑う。
赤い傘をさして、手には青い傘をふたつ持ち。

キバがナルトの横でムスッとしているのを知ってか知らずか、たぶん知っているがはナルトと会話を続ける。
「アレっしょ。落ちこぼれードベ!」
ナルトの頭に堅く重い岩が降り掛かる。ガーン!

「そんなさ、そんなさ、はっきり言わなくても…」
しょぼん、としたナルトの頭に堅く重い岩がまたも降り掛かった。ただし今度はショックから来た精神的な物ではない。キバの拳だ。

「いってぇーっ!!何すんだってばよキバ!」
「うるせェ!」
唾を飛ばしてキバが叫ぶ。
ガキの喧嘩に、はあーあー、と楽しそうに声を漏らした。
雨はまだ降り続いている。だがさっきよりは大粒の水滴ではない。少しだけ小さな水滴。

「うるさいねぇガキ共。少しは静かにしなー」
の声ひとつではナルトもキバも聴く耳を持たない。
ふたりとも睨み合っている。

「ああそうそう。君らにぃ、傘持ってきたのー。ちゃあんとふたつある」

その声にキバとナルトが反応した。特にキバ。

「帰らないと先生方に迷惑かかるからあ、止めないとー。ね」
気絶しない程度にはキバとナルトの頭を叩く。
鳥の仮面の女は今度は笑っているようには見えなかった。
「喧嘩両成敗。ってぇやつよー。あっは」
女はまた、楽しそうに笑った。



数分後、赤い傘の横にはひとつだけの青い傘があった。
赤い傘の中は当然だが、青い傘の中は、キバがいた。
キバはナルトとある事を約束し先に帰らせたのだ。
と、二人っきりになる為。

「送ってくよー。ふたり家近いものねー」と言ったに、キバは心の中で拳を握った。やったぜ!
後は邪魔者を消すだけ。さてどうしよう。
そこでキバはナルトに耳打ちした。「ナルトナルト、明日にでもオマエに一楽のラーメン奢ってやるから、今日は先帰んね?」
ナルトは嬉しそうに頷き、から傘を借りると泥水を跳ねかせて家に一直線。走っていった。

そんなこんなでキバは今とふたりっきり。家に向かってゆっくりゆっくり歩いている途中なのである。

「キバー。今日は何の日でしょう」
「わう!」
の問いに答えたのは、にやけながら道を歩くキバではなくその服の中に入っている赤丸。
嬉しそうに吠えた。
「わうわう!(キバとオレの誕生日!)」
「はーずれ。何言ってるの」
「え?オレと赤丸の誕生日じゃねェの?」
他界に行きかけていたキバが戻ってきて声をあげる。確かに今日、七月七日はキバと赤丸の誕生日だが、今日はもっと世間的な行事がある日だ。

「ぶーぶーぶー。もっと一般的に見て下さい」
ピチャピチャピチャ。静かに足音だけが跳ねる。ピチャピチャピチャ。
静寂の中キバは考える。ついでに赤丸も考える。七月七日?オレの誕生日じゃないのか。
歩きながら考える。そしてキバは転ぶ。
「バカ!」
流石な彼女は暗部。倒れる前にキバの体を支えた。
「もーキバ重いー。オマエ何キロだ」
「え…?よ、四十三キロ…」
「軽いな。軽い」
けっと口を尖らせながら(やはり顔は見えないのでわからないがたぶんそうしている)は悪態をつく。
そして問う。
「んで、答えわかった?」
「うんにゃ」

カエルが一匹道を横切った。アマガエル。イボがあって可愛くないな、とは思った。

「しょうがないなー。んじゃ答え言っちゃうよー?言っちゃうよー?」
焦らしながらが笑いながら言う。キバは真面目な顔つきで頷いた。

「七夕」


静かな口調で言われたその言葉を聞いてやっと思い出した。
「ああ…そっか」
そうだ今日は七夕だ。あまりにも四六時中離れなかった為神様に罰を与えられた織姫と彦星。ふたりは一年に一度しか会えなくなった。七月七日一日しか。

「七月七日ってねぇ…梅雨が明けかけてて最も雨降りやすい時期なのよねぇ…カミサマは意地悪だ」
笑いを堪えた声が仮面の奥から聞こえる。
くぐもった声が。

「最近は毎年晴れないね…。可哀想だ」
くくっとまた笑う。変わらず彼女は仮面をとらない。
キバはの素顔を見た事があったが、それも一度だけだ。
普段彼女は仮面をとろうとしない。それが例え二人きりの時であっても、だ。


「なあ…」
「呼び捨てするなってー。まあ今日は七夕だし他に誰もいないから許してあげよう。許可する」
「ははー。じゃねえって。ああもう馬鹿馬鹿しいなオレ」
頭を掻きむしって、今言おうとした事を頭の中で再度整理する。
これを言ってから、これを言って…。

「まあた今年も会えないんだよ織姫サンと彦星サンは。かーわいそー」
まるで会えないのを楽しむかのように、けれど哀れむようには言う。
キバは彼女のそんなところが大好きだったが、今は頭の中の整理で忙しい。

「あのな。。今日、夜オレん家来れるか?来れたら九時頃待ってる」
「行けない」
キッパリと断られたキバは一気に落ち込んだ。まあこの雨だ。どうせ。
「今日はSクラスの任務がつかえててね。ごめんなー。今度この埋め合わせするから」
キバの前で手を合わせて謝るが可愛かったので、許す事にした。
でもせめて。

「埋め合わせなんていいから」
本当は断られるのを望んでいたのかもわからない。


「仮面、はずしてくんない?」

のほうを決して見ようとはせずに、キバは頬を掻きながら呟いた。
恥ずかしいらしく顔は微かに紅潮している。

「ああ…。なんだそんなことか。別にいいよ」
と、くぐもった声が聞こえて、キバは嬉しくなった。表情からもその喜びは容易に見て取れる。
「あっは。でもなあ…。まあいいか」
言って、はゆっくりと仮面をはずした。

整った顔が仮面の奥から覗く。綺麗な顔。

「ふあー…。汗かいたぁ…」
彼女の言う通り、白い肌には点々と汗が浮かんでいる。
久しぶりに見た、本当の顔。

「カワイイ…」
思わずでた本音に、キバは遅い後悔をする。慌てて口を押さえるが、それは最早後の祭りである。
「へぇー…。だーぁれがかわいいって?キーバちゃん?」

赤い傘を放り投げ、キバよりも何十センチか高いの長身がキバを抱き締めた。
「あっはー。キバちっちゃいなあー」
にっこりと彼女は笑った。やっと見えた、笑顔。
「うるせ!」
小さく悪態をつくが、キバは笑う。見える彼女の笑顔が嬉しくて。








何これ。というか変化の術で蛙とかに化ければ帰れるような。
暗部のおねーさんを書くつもりじゃなかったような。でも面白かった。
と、いうか。なんというか。あれですな。七夕と仮面がまざってる…。ひとつに絞れば良かった。




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