die.8










わけのわからないまま、時間は過ぎて行った。
この時をただ大切にしていたいけれど、時間というのは残酷なもので、あれよあれよという間に過ぎて行ってしまう。


「ごめんなさい…ッ」



涙は止まらず、溢れていく一方だ。
思いは一方通行で、それに似ている。

一限目開始を知らせるチャイムが鳴ろうと、は気にせずに泣いた。
これはいつかのあの日のようだ。
一週間前だっただろうか。



一護は、一言「悪い」とだけ謝り、教室に戻って行った。
残されたのは涙の跡と、ぬくもり。



「ごめんなさい……」

謝る必要はどこにもなかった。
ここには誰もいないのだから。





いないはずだった。



あなたはいつもそうで、まるで漫画とかみたいに都合のいい時にあらわれる。


「石田…くん…」

キッと鋭く、雨竜を睨む。
嘲るように、彼はを見下していた。
眼鏡が光に反射して、光る。


「君は馬鹿かい?」

蹲っていると視線をあわせるためにしゃがみ込んで、ゆっくりと深呼吸をすると、彼は一気に捲し立てた。

「涙を流すだけでは、人は変わらない。知ってるだろう?君がいい例だ。この間だってそうだ。ただ泣いてばかりで何も解決しようとせず人に頼って!情けないと思わないのかい?情けないと少しでも思うのなら変われよ。変わろうと努力しなきゃ人は変われないんだ!!」


「煩い…うるさいうるさい……」

俯き、耳を両手で塞ぎながら彼女は首を振った。

雨竜は、の顎を掴み、押し上げる。
泣いている目は、潤んでいた。











「変わらなくてもいいから」











雨竜の目は、潤んでいた。

屋上のコンクリートに、の泣いたあとが残っている。





『一護って呼んでいいって、言ってくれたよね?』
に屋上に連れ出されたと思えば、突拍子もない質問に一護は曖昧な返事を返す。

『覚えてないかなあ。始めてのホームルームでさ、ほら言ってたじゃない。席隣で…』

『ああ!あれか、ああ、確かに言ったな、言った』


一護に、は淋しそうな笑顔を向ける。

『それがどうかし…』

言いかけた言葉は宙を舞い、錆びたフェンスを越えて校庭のならされた土に落ちていった。

潤んだ瞳が、一護を真直ぐ見据えている。


『嬉しかったんだよ。そんなこと、言われたことなかったから』

は涙を拭おうともせず、ただ流している。
白いシャツから伸びた細い手が、ぎこちなく動いたのが見えた。


『ただね、それを言いたかっただけ…。ありがとう』





一護は、悪いと告げての頭に大きな手をのせた。
暖かい手。


そして、屋上から消えていった。







雨竜は、消えない。








「変わらなくていい。ゆっくり、元の君に戻って、また、いつも通りにしていればいい」





見た事のない、柔らかい、そして暖かで優しい微笑み。
自分には、向けられたことのない、笑顔。

全てが癒されていくようで、心を酷く凍えさせた傷が治っていくような、暖かい、笑顔だった。

自分には決して向けられない、笑顔だった。
けれど今、に向けられている笑顔は柔らかで、暖かで、優しい。

























頑張れ雨竜!(アホか)






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