エンドレス











緩く、ソファ越しに抱き締める。
束縛しているようで、きつく抱き締めるのは好きではない。

けれど、たまに力を込めてしまうのだ。
愛おしすぎて、感情を堪えられずに。




細い体を支える灰色のソファは、冷たい。
冷たい灰色のソファに沈む細い体も、少し冷たかった。


「あのね」


本のページを、ゆっくりと捲る。
分厚いハードカバーの本から、目を放してくれないのが少し、悔しかった。


「うん」

空気も冷たかった。
11月に入って、まだ少ししか経っていない。
今年は冷夏だったせいもあり、冬が少し早く訪れている様な気もした。
ヒーターを、つけようかつけまいか、頭の隅で考えた。


「好きだよ」

物語はもうクライマックス。主人公の仲間は傷付き倒れ、それでも主人公の勇者は振り返らず、涙を流したまま走って行く。

格好良いと、の首越しに文章を追いながら、思った。




長い黒髪の、主人公の恋人は、吐血しながらも主人公を見つめていた。
目を細めながら、今にも絶命してしまいそうな少女を見て、主人公は泣いた。


『愛してた…』

か細い声で、少女はそう言う。
咳と共に吐き出された血液は、少女を抱き締める主人公の腕を過ぎ、短く刈られた草の上に降り注いだ。
勇者と共に闘った少女の最期は呆気無いもので、そして、言葉を発したが為に草は血に汚れた。

しかし、それだけの価値はある、最期の一言だったのだ。






の体に絡み付く腕の力など、蟻と同等程度だった。
頬は涙が伝っていたし、それは彼女も同じだった。





勇者は、少女の亡骸をそっと草の上に置き、また走り出した。





そこで、この章は終わった。細い手によって、ぱたん、と本は閉じられ、分厚いハードカバーの表紙が初めて見える。
赤茶色の本で、金箔で題名が書かれている。


「ごめん…何だっけ?」

が、涙を片手で拭いながらこちらを向いた。
けれど、自分の頬を伝う涙は止まらない。


「いいよ、待ってる。最後まで一気に読んだ方がいいでしょ?」



少しだけ、腕に込める力を強めて、耳元で囁いた。
彼女は呆気にとられた様な表情をして、少し考えてから、笑い出した。



「な、何?」
「だって…航平がそんなこと言うの合わなくて…おかし」

十秒ほど、笑いの余韻が抜けないまま、は一度ソファに置いた本を取り上げ、栞を挟んだところを開いた。


「本当にいいの?」

確認するを、愛おしく思った。


「いいよ。後で貸してね。俺も読みたい」



そう言うと、は一度抜けた余韻がまた踵を返して戻ってきたようで、腹を抑え笑った。
次はソファ越しに抱き締めるのではなく、体温を直に感じよう、と、ソファから離れながら思った。

ホットカーペットの上に座ると、足の指が酷く冷えている事に気がついた。
伸ばした足を触ろうと、体を折り、腕を伸ばした。
手の指と、足の指を絡ませる。熱を持った手の指と、酷く冷たい足の指は、相容れない物かもしれない、と考えた。



「笑い終わった?」

静かになったに気がつき、目を向けると、そこには既に本の世界に入り込んでいる彼女がいた。
少し何かに安堵して、目を細める。







やはり、寒くなってヒーターをつけることにした。
暖かい風が冷たくなった足を温める。
まるで解凍されていくようだと、思った。

















内容と全然関係ない題名って実は結構好きだったりします。
そしてまた短いなあ、と思いつつもアップしてしまうあたりだめですか。
この展開が急なところは変わりません。




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