e x i s t(ここに、居る?)







目を瞑る。君は、なんで此処に居る?




「おい。居眠りか」

目を開ける。銀髪の少年。我が隊の隊長。日番谷冬獅郎。日番谷って変な名字ですねと初対面で言ったら、グーで殴られた。お前、相手が俺でよかったな。他のやつに言ったら殺される所だったぞ、と酷く機嫌を損ねた様子で言った。



「居眠りです」

また目を瞑る。ぐー。


「いいご身分じゃねえか」



目を開ける。少し怒ったように、いや酷く怒ったように口を歪めて眉根を顰めている隊長。



「日番谷って呼んでいいですか」
「呼んだら殺すぞ」

からすがどこかで鳴いている。
ソウル・ソサエティにもからすはいるんですねえ、と言えば、お前の居た所にはいなかったのか、と言われた。
真っ黒なからす。

ここに居る人達は、皆からすのように黒い。


「じゃあ呼びません」

草に寝転がっているのは好きだ。大の字になって、雲を見つめて、目を瞑る。鳥の鳴き声をBGMに、やがて眠りに落ちていく。あるいは考え事をする。


それが酷く好きだ。そんなつまらない日常に射す光が好きだ。



「じゃあ、冬獅郎隊長と呼びます。文句はないでしょう?」
「…隊長だけか日番谷隊長にしろ」
「注文の多い隊長ですなあ」

目を瞑って、そのまま苦笑する。彼は怒ったまま。
わたしの上に、影を落として。



「変な髪型ですね。毎日何時間セットに使ってますか?」
「…」
「ええ、十二時間?それは大変ですね、睡眠時間をセットに使っているというわけですか。ああ、それなら居眠りが多いのも納得がいきますね」
「黙れ」

目をあければ、酷く機嫌を損ねた彼の顔。そんなに、怒らないで下さいよ、と、冗談めかして言えば、本気で殺すぞ、とドスのきいた声が降ってきた。


「座ったらどうですか」

わたしは指を一本、ぴくりと動かす。




「ああ、そうする」

わたしの上から影が消えていく。どこかでドサリと、聞こえる。



「平和だなあと思うんですよ」
「何がだ」
「この、世界、ソウル・ソサエティが。死神なんて物騒な仕事しかないわりには、いい世界だ」
「…」
「わたしは、三つ世界を廻りました」


現世、ソウル・ソサエティ、そして。



どこか、知らないところ。きっと現世とソウル・ソサエティの間、時間のない世界。





「その中でも、ここは一番美しい」
黒だけの服。輝く刀。どこか冷めた人々の青白い顔。





「隊長ー」
「なんだ」
「わたしが死んだときには、火葬にして下さいね」
「お前に肉体なんてないだろう」
「…」


ちゃんと、ここに居る。


「ちゃんと、生きてますよ。ここに居る。わたしは生きている。生きてここに、居る」

「ムキになるな」

泣きそうになる。みっともなく大声で、子供のように。




「魂魄だけかも知れないけれど、霊子の集まりかも知れないけれど、それでも、ここに居ます」
「知ってるよ」
優しい声。ああ、わたしは、わたしも、知っている。
彼のこの、声の意味を。







目を瞑ったわたしの額に、小さな感触。冷たい接吻。



薄い唇が、わたしの額に触れたのだと理解するのはあっという間だった。
白い歯を隠す薄い、隊長の唇。

「なんだか隊長って」
「なんだ」


からすがどこかで鳴いている。
だれかがどこかで泣いている?




「唐突にこういうことしますよね。他の人にもしてるんですか?この色情魔!」
「しっ…!」


本気でムカついたような、本気で驚いたような、そんな声が聞こえた。ははっと笑い声をあげると、わたしは冗談ですよ、と言う。


「他のやつにする筈ねえだろう」


「隊長、隊長」

真剣味を帯びた声が出て、驚いた。そんなに真剣な話題ではないよ。












「この接吻だとかは、こんな平和な場所だからこその、余興に過ぎませんか」












ああ、という、いつもの低い声が返ってくることを願っています。







「そんな筈、ないだろう」





少し苛立った声が、聞こえた。

わたしのために、怒ってくれているの?


ああ、やっぱりわたしはここで生きているよ。



「そう、か」
「ああ」
目を開ける。空が、一面に、ある。黒いからすが何体も飛んでいる。



「それは、とても、よかったです」





不意に、涙が出そうです。これはうれし涙、と呼ぶのかな。

「わたしは、ここに、居ます、隊長」
「知ってるよ」
「隊長だって、居る」
「ああ」


隊長の声の聞こえる方を向くと、彼も同じように大の字で寝転がっていた。真似ですか隊長。

真似だったら、嬉しいな。




「皆、ちゃんと居る。でも隊長は、なんで此処に居るんですか?」
「どういう意味だ」


隊長も目を瞑っている。冬獅郎、と小さく呟く。



なんだ、と同じくらいのボリュームで返って来て、不意に、不意に、嬉しさ、が込み上げて。
共有する秘密を持ったあのときの嬉しさみたいな。秘密の、嬉しさ、と言うのは馬鹿みたいだけれど。









「なんで、わたしの隣に、居てくれるのか」
「そんなん簡単だ」

わたしも目を瞑る。またからすが鳴く。ごめんなさい少し静かにしてて隊長の声が聞こえないよ。














「俺が、お前と居たいからだ」













「…うっわくっさー…」
「…うるさい」


隊長、わたしも、あなたも、ここに、居ます。
この美しく平和な世界で、一緒に、ここに居ます。

















5.20 スパイダーリリーと被る話だ。

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