fool






馬鹿な君と馬鹿な僕。
きっと似たもの同士である事だろう、僕はそれを願います。







「お人形さん」


透き通る声が雑音の中をすり抜けて雨竜の耳に届く。
顔を上げるといつもの様に彼女は口を歪めていた。

「お昼食べに行きましょう」


彼女が雨竜の事をお人形さんと呼び出したのはつい最近だ。
雨竜が突然陶器の人形の様に見えたからそう呼ぶことにしたそうだが、最初にそう呼ばれた時は大層驚いたものだった。それはそうだ、ある日突然自分の事をお人形さんと呼ぶ人間が現れたのだから。
今はもう慣れた。何を言ってももう彼女の決意は揺らがないし、何度直してもすぐにまたお人形さん、だ。
雨竜は溜息を吐きながら、鞄の中から弁当箱の包みを取り出した。

「行こう」

たぶん入学式の次の日くらいから、雨竜と彼女は必然的に一緒に昼ご飯を採る様になった。
それは屋上へ行き隅の方で弁当を食べるせいだっただろうが、いつからか彼女は態々雨竜の席にまで訪れ行こうと誘う。それはたぶん一緒に弁当を食べた次の次の週くらいからだ。よく覚えてはいないけれど。





屋上のど真ん中にはいつもの様にオレンジ色の頭が見える。その横には茶色頭と黒髪が陣取っていた。
オレンジ頭の正面にはとにかくでかい頭が見えた。
黒崎一護、浅野啓吾、小島水色、茶渡泰虎の四人だ。男四人むさ苦しい事この上ないが所詮は昼飯時だ。
たかが三十分程の事なので気にするような事でもない。
だが黒崎一護と茶渡泰虎が固まって昼飯を共にするのは正直どうかと思った。
中学の時にその見かけから不良だヤクザとよろしくやってるだと悪い噂がたっていたような二人だし、一緒にいれば余計悪いやつらに見える。その仏頂面のせいで。

そして屋上の端には自分と彼女。いつか端に寄り過ぎて彼女が弁当の中身を派手に落とした事がある。
それは運悪くもちょうど下にいた生活指導の教師に全て降り掛かったのだけれど、その時は自分の弁当を彼女にわけてやったものだ。彼女は学校に金を持って来ていないと項垂れていた。一口も食べずに落としてしまったのだ、それは至極当然と言える。それ以来二人は端からすこし離れたところで食べる様にしている。
そりゃああの時は彼女もすこしふざけていたからしょうがないとは言え、念には念をだ。



「ご馳走様」
『育ちのせいで』自分は食べるのが他人より少しばかり遅い。
だから先に食べ終わるのはいつも彼女だ。頬を緩め手を合わせるのだ。

「馬鹿、ね」
彼女曰く自分は食べ方が下手なのだそうだ。
彼女は食べ終わると、いつも雨竜を見てそう呟く。
『馬鹿、ね』と、笑いながら呟いているがその笑いは幾分苦笑にも近い気がしたけれど。


「そうだ、お人形さん、これ」
彼女が今日弁当箱と一緒に持っていた箱を雨竜に渡す。
手のひらに収まってしまいそうな小さな箱だ。

「?僕に?」

「そう。自作です、ぜひ開けて」
箸を置いて彼女に言われるまま箱を開けると、中にはこれまた中々にセンスのある指輪が入っていた。
まて、彼女は今自作だと言わなかったか?
箱の中の指輪はシルバーで、それはまるでそこらのアクセサリーショップに10万くらいの値がついて売られていそうな物だった。

「自作って…すごいね」

「ありゃお人形さんに褒められちゃったよ」
彼女はふざける様に言ってみせた。僅かでも照れているのだろう。


「ありがとう」
「こういうのって迷惑?こないだのおべんとのお礼のつもりなんだけど」
「全然迷惑じゃない。それより、弁当の礼?割に合わない」
「いいのさ。私にとってお昼はその日の活動力だから」
にこり、というよりはにーっという様に笑った。
その笑みが少しだけ同類に見えた。彼女はいつもどこか別の生物のような気がしていたから。


「いらなかったらいつでも捨てて。もしくは今言って」
まだ間に合うよ、と目で訴えかける。


「まさか。ありがとう、大切にするよ」

箱をことりと床に置いて、弁当箱を包み直す。
ひっそりと手を合わせた。いつかからか手を合わせる事なんて忘れていたけれど、彼女と昼飯を共にする様になってからは手を合わせる様になった。「ご馳走様」と。


「…そろそろ行こうか。授業が始まる」

「ああ、ねえお人形さん?」
立ち上がり歩き始めた雨竜の後ろを彼女が追いかけて来る。


「ほら」
彼女の声に後ろを振り返ると、彼女は自分の手を見せている。
その指には先程箱の中で見た物と同じ指輪。

「お揃いなのですよ。嵌めてね」
意地悪く笑ってみせる。そして雨竜を抜かして一人でさっさと行ってしまった。


しばらく、顔を押さえて動けなかった。熱い。手を離したら一護達の目にふれる事になるだろう、真っ赤な顔が。それだけはどうしても避けたかった。
しょうがなく、冷めるまでそこに突っ立っていた。



「お人形さん。早く。授業始まるよ」
とっくに階段を降りたと思っていた彼女が急に現れて顔を覗き込む。
驚いて二、三歩後ろに下がってしまった。

「顔、赤い。恥ずかしいんだ」

「なっ…!違う、これは…」
必死に言い訳をしようと言葉を探す雨竜の横で膝を折る。
彼女が自分を見下す形になった。先程下がった反動で尻餅をついてしまっていたから。


「弁解しなくていいよ」
顔を近付ける。口は笑みの形に作られていた。



指輪を嵌めた右手が雨竜の顔の左につく。同じ様に、左手も雨竜の顔の右に。
汗が頬を流れ落ちた。貯水タンクの向こう側では一護達が楽しそうに笑う声が聞こえて来た。
目の前、本当に今目前にいる彼女は楽しそうに口を歪めていた。


「お昼食べたばっかじゃなかったらね」



くるり、と立ち上がる。

「本気で顔赤くなってる…かわい」
くす、と笑った声が聞こえた。頬を流れる汗を拭った。


「君が…」

「私はお人形さんの上に被い被さっただけだけれど」
そうとも言えるが、やはりどこか悔しい物がある。
それは例えるならば自分の誕生日のケーキを翌日あまりを他人に食べられた、という感じだ。
空虚を掴んでいる様な。



「くやしいんだ…。何かやってもいいよ。抵抗しない」

彼女が振り返り様に言った。
そのまま、くすりと笑いながら階段を降りようとした。

「できるならね」
と彼女が呟いたのが階段に響いたのが聞こえた。

悔しい。


ゆっくりと一段一段階段を降りる彼女を追い掛ける。
一段下に彼女がいた時、後ろから抱きしめた。


「冗談」

「冗談じゃない」

自分を嘲笑うかの様に彼女は短く息を吐いた。
その動作に少しだけ苛立ちを覚えた。
動揺のひとつ見せない彼女に、雨竜は半ば意地になっていたのかも知れない。


「ほら予鈴。離して?黒崎達もすぐに来るでしょう」

「嫌だ、と言ったら?」

「諦めるわ、仕方ないもの」
彼女は諦めた、というように手を裏返した。


無理矢理唇を奪う。彼女がこちらを向いていた為、そんな事は容易かった。
触れあうだけの物だったが、やけに長い間自分の唇を彼女のそれに押し付けていた。
唇とそれが離れると、複数の足音がこちらに急ぎ向かっていた。


「…ほら、誤解されるわよ、いいの?」


彼女の反応は変わらず、平然とした顔でそう言ってのけた。
もう一度口付けてやろうかとも思ったが、彼女の言う通りこのままでは本当に付き合っているだとか誤解される。それは、とても困る。


少し惜しみながら回していた腕を解くと、彼女はまたゆっくりと階段を降りた。
雨竜もその後に続く。

すぐに後ろから一護達が走り抜けて行った。
先程本鈴が鳴ったからだろう。自分達も急がねばなるまい。
けれど自分より一段先の彼女はゆっくりと階段を降りる。

彼女がゆっくりと階段を降りていたのは、火照った顔を教室に着くまでに冷ましたかったが為である事を雨竜が知るのは、後五段階段を降りて踊り場に出た時の事だ。











火照った顔を冷まそうとゆっくり歩く君と、火照った顔を見られまいと手で隠す僕。
もしかしたら、いやきっと、似たもの同士なのだ。
僕は指輪を嵌めた手を握り、それを願います。


















(うりうさんはこんな事言わないと思う。ていうか無駄な指輪だな。それより変な関係を書きたかったんですけど上手く書けない。名前変換無しはどうなんだろう)




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