嘘を吐くことが、悪いこととは思わない。






    ぎ ぜ ん し ん











「隊長は変な正義感あり過ぎです!」
「正義感なんてそんな洒落たもん、俺は持ってねえよ」



( ああ、あなたは悪いひとだ )




困ったように微笑んで、いつも子供の私の相手をしてくれる。






隊長、嬉しいけれど愚かすぎます























     わたしは死にたくない
地に腹をつけて、黒い死覇装を引っ張って、行かせないよ、って。

「だってまだ死にたくありません」

いやだいやだと訴えて、唇を噛み締めた。
     つらいな
同情してくれたのはあなたでしょう。



「俺は確かにお前を哀れだと思った」
「思ったなら」
「だが、それとは別だ。お前を放っておいても、誰も気付かない」


振り返って、隊長は仕舞った斬魄刀を抜いた。


(気付かなければいいという問題ではないでしょう)


「隊長」
「お前を裁いたのは俺だ。お前をここまでのし上がらせたのは俺だ」

(なら)

「お前を殺すのも俺だ」




生きてたころのことなんて覚えてない。覚えてたのはわたしの髪が黒くて目も同じ黒だったことだけ。でもこっちにきたら目は青くなってしまった。





「隊長」
「しつこい」

「最期にひとつ、餞別代わりに聞かせて下さい」

「…」


刀をこちらに向けて、切っ先をわたしの首にひやりとあてたまま、隊長は黙っている。ひやりとした刃を、わたしは指でなぞる。ぷつりと肉が切れて、血が一滴血塗れの黒い死覇装に落ちる。

血にまみれた指を、わたしは膝の上においた。









「なんで、隊長はわたしを部下にしたんですか」










「愚問だな」

無表情を変えない。いつもいつも怒ったような顔。雛には、微笑む。乱菊さんには、笑う。


わたしには、怒るね。




隊長は少しずつ刀を食い込ませる。血が出る。わたしはぴりっとした痛みを感じている。


「たい、ちょう」
「なんだ」

「もうひとつだけ、いいですか」


隊長は斬魄刀をわたしの首に食い込ませていく。ぷつりぷつりって血が出ていって皮が切れて。




「なんで、わたしをこっちへ連れてきたんですか」
「…お前が、自殺したからだ」


はじめてみる顔で、隊長はわたしを見下ろしている。憐れむような顔。




(あれ?わたし自殺したんだっけ?)

ただの銀髪の少年に見える隊長は、刀を仕舞った。
そして膝を折って、わたしの血塗れの頬を長い指でなぞった。さっきわたしがしたのと同じように。

「こんな姿になって尚、生きることを望むのか」

隊長の指にわたしの血がつく。隊長の指の腹に血が。
隊長は、わたしよりも背が低いのに、わたしよりも指が長い。


「なんで憐れむんですか。なんで怒ったんですか」



血が涙のように頬を伝っている。わたしは深く切れた左腕を右手で握ったまま、隊長を見る。

「俺がお前を叱るのは、お前が哀れだからだ」
「じゃあなんで憐れむんですか」


切れた頬が、痛い。隊長、わたしの肉見えているでしょう。いやだな目のいい隊長だから細胞とかまで見えているのではないですか?




「お前があんまりにもみていられないからだ」




わたしは目を瞑る。隊長と目を合わせているのは、ずっと苦手だ。現世で斬魄刀に斬られたときも、流魂街で拾われたときも、彼の部下になったときも、ずっと。苦手だった。
そしていま、死にかけている今もわたしは、彼と目を合わせているのが苦手で、死ぬまで彼と目を合わせるのが苦手なのだろう。


わたしは目を開ける。



「じゃあ」


隊長はわたしの肩に手をかけている。はじめてみる顔で。













「じゃあ、なんで泣くんですか」












「お前を、愛していたからだ」












目の前で泣いている隊長が、わたしを見ている。
涙がぼろぼろと零れていっている。返り血に塗れているはずの黒い死覇装に、彼の涙が吸い込まれていく。



無気味なほど青い空が、彼の後ろに広がっている。わたしの目には、返り血にだけ塗れた彼が、写っている。

傷ひとつ、負っていない。つまりわたしは、弱いのだろう。



(刀が交わる。激しい音がぶつかる。隊長は舌打ちする。隊長の斬魄刀がわたしの左腕にかかる。鈍い痛みが走る。傷は熱を持ちわたしに訴える。痛い。隊長は斬魄刀の切っ先でわたしの頬をかすめる。わたしは必死に彼に刀を向け、牙を向いている。)





(鏡で自分の顔を見てみると真っ黒だったはずのわたしの目が青く染まっていた。無気味なほどの青に一瞬たじろぎ、そしてよく見ればきれいだと思った。三日経てばそれにも飽きて、やはりもとの黒に戻りたいと何度も思った。けれどいくら願ってもいくつ夜を越してもわたしの目はもとには戻らないで青のままだった)





「隊長」


隊長の目からはぼろぼろぼろぼろ涙がこぼれていっている。はじめてみる顔。
唇を噛み締めて、眉を下げて、わたしの目をいつものようにじっと見つめている。

その場に崩れている彼は、わたしよりもずっとずっと強い筈なのに、ずっとずっと弱く脆い存在に見えた。


蚊のように、儚い存在に見えた。





「隊長、わたし」


わたしはまた目を瞑る。こんな隊長は、隊長ではないと自分に言い聞かせて。

隊長はわたしのことが大嫌いで、わたしをできるだけ利用しようと考えていて、わたしに対して怒鳴って、わたしに怒って、眉を顰めて、いつも不機嫌そうにしている。

















「わたしも、隊長のこと好きでしたよ」















体中の傷が熱を持っている。冷静になればそれらは酷く痛み、そして思ったよりも自分の息が荒いことに気が付く。体は呼吸に合わせ上下し、切れた喉からはかすかにひゅうひゅうと情けない音が聞こえる。



「隊長、顔を上げて。そしてわたしを斬って下さい」







どうか、あのときのように。




「隊長、あなたが自分を偽善者と嘲るならば」







どうか、どうか。








「隊長、わたしは」




















終わりのない世界に、わたしは泣いた。血の涙を頬いっぱいに流して、彼のために、わたしのために、誰のために、誰かのために泣いた。



酷く無気味な空がある。わたしを歪んで映す水たまりがある。
わたしを映す水たまりには、真実が映っていないようだった。わたしは死覇装を着ていなかったし、目は黒いように見える。わたしは知らない服を着て、そこにいる。



















「隊長、わたしは、きっとずっと知っていました」



泣きながら、隊長は刀を抜いた。無言のまま、彼はわたしを斬る。











血が彼に跳ねて、そして、わたしはどこか、彼のいない場所へ。
最期に見えたのは、隊長の泣き顔。























隊長。

















5.3 意 味 の わ か る 物 が 書 き た い!(…)

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