reach for








手を伸ばせば届きそうな距離にいるのに。










空は穏やかな青で、僅かな雲はゆっくりと流れている。
風は緩やかで草を波立たせ、髪を揺らす。
気温も丁度良く、昼寝には心地よさそうな絵に描いたような天気だった。

気侭な綱手姫はシズネとに留守番を命じ、一人で買い物に出かけたのであった。





「シズネ」


の声がやけに大きく聞こえるのも、たぶんこの沈黙のせいなのだろう。
隣で寝転がるを見やる。目を閉じて、口も結んでいた。


「外、出ようか」

驚きのあまり自分が目を見開いている事にも気付かなかった。


「ツナデ様がまだ…」
「んな甘い事言ってられるか。こんなに良い天気なのに」
「駄目です」

ちえっ、と呟いて、上半身を起こす。
口が悪いせいで、その美しさも台無しだと横顔を見て思った。




「だって、ほら。外気持ち良さそうだし。ね」


手を伸ばせば届きそうな距離にいるのに、それすら出来ない自分が不甲斐無くて仕方がないのだ。



「行こうではないですか」
「ツナデ様が帰って来たら三人で行きましょう」

頑として聞かないシズネに、手を伸ばそうと重力に逆らう。
けれど、それすらも出来ない。


さん?」

手を伸ばす事すら億劫なのだ。
首を傾げるシズネの目の前で、手を止めた。
手は、そのまま重力に従って落ちていく。



「私は行くから」
「え?ちょっ、さん…っ」
重力に従い落ちていった手をそのままに、立ち上がるとシズネも立ち上がる。

「駄目ですっ」
「嫌です」

手を掴む事は出来ない。
代わりに、腕を掴んだ。





「ほら」

ドアを開けると、家の中にはなかった穏やかさが身を包む。
緩やかな、風。


「いいではないですか。たまにはこんな日も」

裸足のままで出て来てしまった。
転がる石が、足に痛い。


「靴、履いてないんですよ」
「奇遇ですね私もです」

土が足に付着する。
は、どんどん歩いて行って、シズネも、歩いていく。

腕を掴まれているからではない。
腕を掴まれているからかも知れない。
どうかはわからない。




「手を、ね。掴む事は出来ないんですよ」
足の裏にくる痛みにも慣れた頃、が口を開いた。

短い草の間に転がる石が痛い。


「シズネが綱手姫だったら問題でしょう。こんな事」
「まあ、大問題ですね」

座ると、シズネにも座るよう促す。


「足、慣れました?」

が、ゆるく笑んで言う。
シズネは、呆れた笑いを零した。



「慣れませんよ、少し」
「まあ、普段靴を履いているからですね、それは」
「ええ」

風が、シズネの髪を揺らす。
の髪を揺らす。



「あ、ごめんなさい。足、切れちゃってますね」
「ほんとだ」
シズネの足からは、ぷつりと滲む赤い玉。

「ちょっと待って下さいね。消毒しますから」


腰につけた鞄から、消毒液と絆創膏を取り出す。
消毒液をかけてから、絆創膏を貼った。



「これでたぶん平気ですよ」
が、またゆるく笑んだ。


手を伸ばせば届きそうな距離なのに、それすら出来ない自分が不甲斐無くて仕方がないのだ。


「ありがとうございます」
後で思い出したら暇な会話だと、思うだろう。

ただ、今の自分には、手を伸ばす事が必要だと思っていた。


「手、伸ばしたら掴んでくれます?」

ぱたり、と草に倒れ込む。
そして、手が宙を掻く。


誰かの手が、の手を掴む。
白くて、枝のような細い指。


「ありがとうございます」








どうしようもないと思うのだ。



「いつだって掴みますよ、さんの手ですから」

隣に倒れる、シズネの手はの手を離さない。
は、離れる事を望んでいない。




「ありがとう、ございます」
















手を伸ばしたら届きそうな距離にいるのに、それすらしない自分が馬鹿の様に思えて仕方がないのだ。





















なんですかこれ。しし、シズネさん夢…?
キャラがつかめない…。




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