tears maker







ゆっくりとした、ピアノの旋律が聞こえる。
誰が弾いているのかは見えないけれど、その音色は確かにの耳に届いた。








「ねえ、雨竜。私ね」

真っ白な病室の中で、白い浴衣を着せられたが口を開いた。
元々白い肌をしていたが、それはきれいな透き通るような白だった。今はどちらかと言うと青白い、病気を連想させる色だ。

「もう、見えないの」


目と手首に包帯を巻いて、悲し気に笑う。きれいなその眼は見えなかった。

ピアノの音がどこからか聞こえる。
ゆっくりと力なく、優しい音。


目に触れる。白い包帯の感触が、気持ち悪い。そこにあったはずの、黒い目は見えない。



黒い目は、雨竜を映さない。



「怖い」

震えた声で、雨竜に助けを求めるように、雨竜の居ない場所に腕を伸ばした。白い腕は、震えている。手探りに、雨竜を求めている。


「怖いの」

何も見えない恐怖と、彼女は戦っている。けれど、それは生涯そのままだ。

戦って、けれど一生勝てない。


宙に浮く白い腕を、壊れ物を扱うように掴む。悲しみと、辛さと、不甲斐無さに嘆いているのが入り交じった顔は、には見えない。




「なんで、なの」

は、雨竜の骨ばった手を一生懸命に握った。細い指が、雨竜の手を伝う。

「雨竜も、もう見えないよ」


白い包帯が、涙で滲んでいく。丸く、濡れていく。

「今雨竜がいるのも、わからない」


俯いて、雨竜の手を震える両手で握る。右手の人指し指に、絆創膏を見つけた。


誰かの為のピアノの音色。きっともう、終わる。


「なんか言って」

今声を出したら、きっと嗚咽しか出てこない。けれどそれも、口を開かなければ彼女にはわからない。
右手に、白い手がふたつ。




「ねえ、そこに居るの」


の口からは嗚咽が漏れる。涙は包帯に消えていく。





「私には、わからないよ」
指が、落ちていく。ぱたり、とちいさく音をたてて白いベッドに。

ほろほろ、と雪が舞うように。




白い指が、手が。雨竜から離れていって、ベッドに落ちる。








涙も、見えない。この情けない顔も。







「ここに、居るよ」







やっとの思いで絞り出した声は、想像以上に情けない声だった。
熱い涙が、ぼろぼろと頬を伝っていく。鼻の奥が痛い。



「ちゃんと、居る」

外では、緑色の草に寝転がる赤いワンピースを着た子供と、茶色のからだをした小鳥と、それと不気味なほど青い空。


けれどどれも、見えないんだね。







の両手を握る。
きちんと、両手で。








「このピアノは、どこから聴こえるのかな」

「あとで看護婦さんに聞いてみるよ」

「うん、お願い」

見えないけれど、赤い服を着た女の子が歌を唄っているのも、小鳥の鳴き声も、聞こえるだろう。雨竜の声も。
どこかからか聞こえるピアノの音色も。


「ねえ、この歌は誰が唄ってるの」

「外で、赤い服を着た女の子が唄ってる」

「どんな子?」

「髪が茶色っぽくて、その髪を三つ編みにしてる」

「外はどうかしら」

彼女には見えない。雨竜には、見える。
ピアノが、終わった。

たん、と最後に小さく音を残して。
哀しく、終わる。


「茶色い鳥が飛んでる」

「空は晴れてる?」

「うん。雲ひとつない、快晴だよ」

「そっか…」














君にはもう、何も見えない。































BGMは猫のハラ減ったコールです(何か間違っている)


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