HAPPY DROP

-うさぎとかめ-


  あるところに、小さな動物達しか住んでない小さな村がありました。
その村には大きな池があって、その池のほとりに一匹のオスのかめ
さんが暮らしておりました。
  さて、この村では毎年10月にマラソン大会が行われていました。
大きな池の周りをぐるっと1周するコースで、かめさんも毎年出場して
いました。でも、かめさんは一度も優勝したことがありませんでした。
足の速いリスやネズミにはどうしても勝つことができないのです。
それでもかめさんはいつか1等賞になる日を夢見て、日々走ることに
励んでいました。
  ところが、そんなかめさんを村のみんなはいつも馬鹿にしていました。
「かめの奴、また今年も出る気だぞ。」ネコが言いました。リスが続けて言いました。
「生まれつきノロマなんだから優勝できっこないのにね。」
「みんな僕には勝てっこないさ。」去年優勝したエリマキトカゲが言い
ました。そんなふうに言われてもかめさんは気にもとめず、毎日せっせと走っていました。努力することが大事なんだと信じていたのです。

  そんな中、この村に1羽のメスのうさぎさんが引っ越してきました。
うさぎさんは、隣町に暮らしていたのですが、この小さな動物達しか
住んでいない村は大変住み心地がよいと聞いて、やってきたのです。
「やっと着いた。ここが有名な小さな動物達の村ね。さて、もう暗く
なってきたし早く新しい家に向かわなくっちゃ。」
うさぎさんは、地図を片手に新しい自分の家を目指しました。しかし少し歩くと、たちまち辺りは真っ暗になってしまいました。
「どうしよう。こんなに暗くちゃ地図を見てもなんだかよくわからないわ。」
とそこへ、エリマキトカゲがこちらに向かって走ってくるのが見えました。
うさぎさんは思い切って声をかけました。
「あのぉ...。」
「3日ぶりのトレーニングなんだ。話し掛けないでくれよ。」
エリマキトカゲはうさぎさんの目の前を通り過ぎてさっさと行ってしまい
ました。うさぎさんは、なんだか心細くなって泣き出してしまいました。
  と今度はそこへかめさんがやってきました。うさぎさんは声をかけようと 思ったのですが、さっきのことが頭をよぎって走っているかめさんに話し 掛ける勇気が出ません。それでじっと見ていると、かめさんの方から
こちらに近づいてきたのです。
「どうかされましたか?」かめさんは優しくたずねました。
「あの、私今日この村に引っ越してきたのですが、道に迷ってしまったんです。自分のおうちがわからないの。」うさぎさんは目に涙を浮かべて言いました。
「それは大変だ。どれどれ...。」かめさんはうさぎさんが持っていた地図を見ました。そして数分後、かめさんとうさぎさんは一緒にうさぎさんの家に向かいました。
 「さあ、着きました。ここがあなたのおうちですよ。」
「わあ、どうもありがとうございました。どうかお礼にお茶を飲んで行って下さい。」うさぎさんは嬉しそうに言いました。
「いえいえ、せっかくですが私はこれから走りに行きますので今日はこれで。」
「そうですか。今日はとても助かりました。お忙しいところ、どうもありがとうございました。」
「では失礼。」そう言って、かめさんは走っていきました。
「ああ、あのかめさんはなんて親切なんだろう。何かお礼をしたいんだけど...。」
 次の日、うさぎさんが村を散歩していると、村のみんながかめさんの噂をしているのを耳にしました。その内容はかめさんが、毎年村のマラソン大会に出場していること、そして今年もまた出場するんだということ、でもみんなはそんなかめさんのことを馬鹿にしている、といったようなことでした。
「あの優しいかめさんのことを悪く言ったりして、みんなひどいわ。あんなに頑張ってるのに。よし、せめて私だけでもかめさんのことを応援しに行こう。」

 そして大会当日、大きな池の周りにはたくさんの動物達が集まって、大変な賑わいとなりました。かめさんも少し緊張気味でやってきました。
「やっぱりみんな速そうだなあ。でも僕は一生懸命トレーニングをしてきたんだ。自分を信じよう。」
「選手のみなさんはスタート地点に集合して下さい。」アナウンスが流れていよいよスタートです。
「よーい、どん!!」掛け声とともに、かめさんは勢いよくスタートしていきました。
「よし、良い調子だぞ。」かめさんは腕を大きく振って一生懸命走っていました。ところが池のちょうど半分を過ぎた頃です。かめさんのペースが少しずつ遅れて、どんどん他の選手に追い越されてしまいました。中には「お先に。」なんて言っていく選手もいました。
 かめさんは急に不安になりました。
「やっぱり優勝なんて無理かなあ。みんなが言うようにかめは生まれつきノロマなのかなあ。」かめさんはとても悲しくなりました。
そんな時です。
「かめさん頑張れー。かめさん頑張れー。」どこからか、かめさんを応援する声が聞こえてきました。
「かめさん頑張れー。かめさん頑張れー。」声のする方を向くと、そこにはあのうさぎさんがいるではありませんか。
「かめさん、あと少しだよー。頑張れー。」
「うさぎさんが、僕のことを応援してくれてくれてるんだ」そう思うとかめさんは急に元気になって、また力いっぱい走り出したのです。
「そうそう、その調子!!頑張れー。」うさぎさんも力いっぱい応援しました。
 さあ、あと少しでゴールです。かめさんはもう何匹もの選手を追いぬいてきました。残すはエリマキトカゲだけです。
「今年こそ絶対優勝するんだ!!」かめさんはどんどんエリマキトカゲに近づいていきました。
「かめさんいいぞー。頑張れ頑張れ。」うさぎさんの声援に驚いてエリマキトカゲが後ろを振り返りました。かめさんはもうすぐ後ろまで来ていました。
「そんな馬鹿な。俺があのかめに負けるはずがない。くそー。」エリマキトカゲは焦ってダッシュしようとしましたが、余裕ぶってあまり練習をしていなかったので思うようにスピードが出ません。
そして、とうとうかめさんはエリマキトカゲを抜いて1番にゴールをしたのです。
「やったー!!」かめさんもうさぎさんも大喜びです。

 「1等はかめさんです。」アナウンスを聞いて村のみんなは驚いています。エリマキトカゲも信じられないといった顔つきです。
「かめさん、おめでとう。やったね。」うさぎさんは言いました。
「うさぎさんのおかげだよ。僕はあの声援を聞いて元気になったんだ。」かめさんの瞳からは涙があふれています。
 「さて、優勝者のかめさんには虹色のメダルが贈られます。」かめさんの首にキラキラと虹色に輝くメダルがかけられました。
「かめさん一言ごあいさつをお願いします。」
「えー、どうもありがとうございます。このような素敵なメダルを頂いて大変嬉しく思います。でも、今日僕が頑張れたのはここにいるうさぎさんのおかげなんです。うさぎさんは僕のことを一生懸命応援してくれました。今まで誰だって僕のことを応援してくれたことはなかったのに。だから、このメダルはうさぎさんに贈りたいと思います。」かめさんの言葉に村のみんなは盛大な拍手を贈りました。
そして、うさぎさんが言いました。
「こんな大切なメダルを私が頂くわけにはいきません。そのかわり、このメダルをこの村のシンボルにしてはどうでしょう。かめさんは、努力することの大切さを私たちに教えてくれました。それを忘れないためにも、勲章として飾っておくのです。」

 そして、虹色のメダルは池の近くの1本の木に大事に掲げられました。そのメダルはかめさんが流したうれし涙のようにキラキラと輝いていたので、村のみんなは「HAPPY DROP」と名づけました。

 さて、かめさんはというとーーー
かめさんは今日も走っています。今度は隣りに自転車に乗ったうさぎさんを連れて...。そう、かめさんとうさぎさんは結婚したのでした。

 おしまい。