ブルーブルーのエッセイ

 

●ハンドキャリー
昔、私はハンドキャリーという仕事をしていました。

 どういう仕事かというと、ようは運び屋です。

 新幹線、私鉄、タクシーなどを使って、物を運ぶ仕事でした。

 移動中に読書が出来ると思い、この仕事をしていたのです。

 運び屋と言っても、別に怪しいものを運ぶわけではありません。

 あるコンピューターメーカーとの契約で、運ぶのは、コンピューターの部品なのです。

 私が契約していたコンピューターメーカーのコンピューターを使っている会社で、何か故障があって、部品が必要だというとき、出動(?)となるわけです。

 たまたま、その部品が日本に1個しかなかったりすると、その部品があるところまで、一番早く行ける方法で取りに行き、そして届けに行くのです。

 普段は、部品倉庫の中にいて、仕事が入ると飛び出て行きます。

 部品倉庫は日本全国にあり、ある場所まで、A地域の人が部品をB地域の人まで届け、B地域の人が別の場所まで届けに行くこともあります。

 バトンリレーのような感じですね。

 とにかく、毎日、新幹線や電車、タクシーの中で過ごしていました。

 当然、移動時間が長いので、毎日毎日本を読み捲くっていました。

 ある夏の日のことでした。

 新幹線の中では、いつもお届けものの部品は自分の足元か、膝の上にしっかりと持っていました。

 ちょうど、その日は名古屋と東京間を新幹線で3往復していたので、ちょっと身体が疲れていました。

 で、新幹線の中で、眠ってしまったのです。

 目が覚めると、座席の横には自分のリュックはしっかりとあるが、届け物の部品がない!ことに気がつきました。

 寝ぼけていた頭がぶっとび、慌てて、荷物はどこかと座席の上や下やらを探していました。

 まさか、部品が盗まれた!?んだろうかと、パニックになってしまいました。

 ちょうどそのとき、向こうから、人のよさそうなおじさんが、にこにこと「どうしたの?」と声をかけてきました。

 「ここにダンボールの箱を置いておいたんですけれど、ないんです!」と私は必死の形相でおじさんに言っていました。

 で、おじさんは、自分が疑われてはいかんと思ったのか、にこにこしていた顔を引っ込め、黙って向こうへ行ってしまいました。

  ちょうど、そのとき、新幹線の車両の上部にある電光掲示板が目に入りました。

  『只今、静岡通過』

  ようやく、寝ぼけていた頭がはっきりとしました。

  今、新幹線は、東京から名古屋に向かっていたのです。

  で、私は、名古屋から東京へ向かって、東京駅からタクシーに乗って、部品をちゃんと相手先に届けたことを思い出しました。

  一人、パニクリ慌ててしまった自分が、妙に恥ずかしく、隣の車両へそっと移りました。

  つまり、私は、寝ぼけていたのです。

  一日に名古屋東京間を3往復し、自分がどっちに向かっているのかさえもわからなかったのです。(東京へ向かっているのか、名古屋へ向かっているのか)

  通り掛かりで声をかけてくれたおじさんごめんね。

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