ブルーブルーのエッセイ

居眠り
これは、ウチの母親から聞いた話である。

昼間、母が電車に乗ったときのことである。

電車の中は割合すいていた。

ちょうど、お昼が過ぎた時間帯で、電車に乗っている人々の半分が、うとうとと眠っていたそうである。

母が座っていた向かいの席には、買い物帰りなのだろうか、デパートの紙袋をたくさん椅子の上に置いた若い娘さんがいたそうです。

そして、事件が起こったのは、その数秒後なのである。

電車は止まっていた。

居眠りをしているその娘さんのすぐ側に座っていたオバさんがスッと立ち上がり、見事としか言えないスピードで、娘さんの紙袋の1つをサッと手に取り、閉まる寸前のドアに向かってサッと走り去ったのである。

母は、驚き、たった今閉まったばかりの扉を見た。

オバさんは、本当に、何気なく歩いていたそうだ。

娘さんから奪った紙袋を1つ手に持ったまま、ゆっくりとホームを歩いている。

一方、紙袋を盗まれた娘さんの方と言えば、身体を斜めに傾け、長い髪の毛をダラリと顔に半分垂らしたまま、いっこうに起きる気配はなかったそうである。

母は驚いた。たった今起こった出来事……。救いを求めるようにして、電車の中を見まわした。

だが、誰も気がついていなかったのである。

昼過ぎの電車の中は、居眠りをする人々がほとんどだった。

母は、娘さんに紙袋が1つ盗まれましたよ……とは言わず、黙って、そのまま電車の椅子に腰掛けながら、椅子にデパートの紙袋をたくさん置いたまま、眠り続ける娘さんを見続けていたそうである。

家に帰ってきて、母は、私にその話をした。

「なんでその娘さんに、教えてあげなかったの?」と聞いた私に、母は、だって、私が逆に疑われたら困るもんと言った。

でも、紙袋の中身は一体なんだったんだろうか?

洋服だったら、世代が違うから、盗んでも着れないし。

盗んだオバさんは、ただ単にスリルを楽しむために盗んだんだろうか?

「どんなオバさんだった?」と私は母に聞くと、とても盗みとかするとは思えない上品そうなオバさんだったそうである。

皆さんも、電車の中で寝るときは、しっかりと自分の荷物を抱えるようにして眠って下さいね。

 

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