初夏の国
 
 恵は8歳の女の子です。可愛いい顔をした子ですが青白い顔をしています恵 通称メグちゃんは白血病なのです。小学校に入って1年め北風が吹き始めたころ入院したのですがお正月が過ぎ、桜が咲いて新しい学期が始まっても病気はよくなりません。
「いつ学校にいけるの?」
 メグが尋ねても 
「心配しないで、ゆっくりとよく治しましょうね」
 お母さんもお医者さんもはっきり答てはくれません。
 メグは自分の病気が直らない病気だということを感じ初めていました。でもお医者さんも看護婦さんも優しいし、お母さんは毎日看病にきてくれます。お友達もたまに来てくれます。そういう時は気がまぎれるのですが、誰もいなくなるとひどく寂しい時間になります。早く誰れかきてくれないかしら、誰でもいいのだけれど、と今日もお母さんが帰ったあと窓の外を眺めている時でした。 
「メグちゃん メグちゃん」       
 どこからか小さな声がするではありませんか、部屋には誰もいません。窓の外は青い紅葉の葉っぱ越しに空が見えるだけです。
「ホラ、ここですよ、窓辺のガ−ベラに止まっているアゲハチョウですよ」
「まア、あなたは人間の言葉が話せるの」
「いいえ、あなたが私たちの言葉がやっと聞こえるようになっただけヨ。ねえガ−ベラさん」
「そうよ、この部屋にきてから3日になるけどずっ−とメグちゃんの方を向いて話しかけているのに気がつかないんですもの」
「では、お花ともお話できるのね」
 メグは目を輝かせました。
「それじゃ、テントウ虫さんともセミさんとも話せるの?」
「そうよ」
「まあ、嬉しい」
 その日メグはアゲハさんと暗くなるまでお話をしました。
「お母さん、お母さん」
 その次の日、病室のドアが開くと待ちかねたように弾んだメグの声が飛んできました。「メグ、どうしたの そんなにはしゃいで」
「昨日お母さんが帰ったあとでね、私急にたくさんお友達ができちやったのよ」
「新しく来た看護婦さんたちのこと」
「ウウン、アゲハさん、ガ−ベラさん、シオカラトンボさん、七つ星テントウ虫さんやニイニイ蝉サン達よ。みんなお話ができるの」
「それはよかったこと… 」
 お母さんの顔が曇りました。お母さんはメグの病状がすすみ幻覚や幻聴が出始めたのではと思ったからです。でもメグは今までになく元気そうです。青白い頬に赤みさえさしています。
「お母さん、私アゲハさんには感心しちゃったわ。どうしてそんなに楽しそうなの、と聞くとね、青い空や雲を見ているだけで嬉しいのですって。じゃ、天気の悪い日は悲しいのと聞いたらね、曇りも雨もやはり楽しいいんですって。なぜってアゲハさんの一生は30日くらいなので目に見えるものがみんな珍しいのですって 生きているって いいナ いいナって」
 お母さんはメグの瞳が生き々と輝いているのに気ずきました。
「アゲハさんのお兄さんは4月の初め頃生まれたんだけど、3日まえ死んでしまったんだけど、私とお話ししたアゲハさんは6月の15日生まれて今日で2週間目なんですって、私はアイスクリ−ムとお母さんが作ってくれるクッキイ−が好きよといったら、アゲハさんはカラタチとかミカンとかの蜜が好きなんですって。でも子供のときはカラスザンショとかキハダやハマセンダンの葉っぱが好きだったので卵を生む時は子供がすぐおいしいものを食べられるようにそういう木を選ぶの、私 カラスザンショもハマセンダンもキハダも知らないけど、お母さんてみんな優しいの
ね。そして親類のキアゲハさんはニンジンとか、パセリやセリが好きなんですって、全然知らなかったわ。明日は遠くで鳴いていたニイニイセミさんも来てくれるの、虫や花の言葉がわかる人間の子にどうしても会いたいって、ニイニイさんは臆病でいつも止まっている樫の幹からあまり離れないの。鳥に襲われそうでこわいんですって、でもニイニイセミさんはアゲハさんより長生きで9月頃まで生きているんですって」
 初めメグの頭がおかしくなってしまったのかと心配したお母さんはメグが急の物知りになってしまったのにビックリしてしまいました。
 いつの間にかお母さんの後ろに往診のお医者さんが立っていました。
「お母さん、メグさんは本当にチョウや草花とお話したんですよ」
 お医者さんがメグの言う言葉に深くうなずきながら言いました。主治医のお医者さんは60歳くらいの少し白髪の紳士でしたが、若い頃植物や昆虫のことも勉強したことがあるのでメグの言うことが一つ一つ正しいことを知っていました。  
 メグは利口な子供でしたがまだそんな詳しいことを知っているはずがありません。
 つまり、メグは本当に虫や草花とお話ができるようになったとしか考えられません。
 「… モンシロチョウさんと話したの。そんなに短い命で毎日悲しくないのって聞いたの そしたらね、私いっぱいいるの。世界中のモンシロチョウと心がつながっていて、その上昨年のモンシロチョウも来年のモンシロチョウもみんな同じなんですって。でも、あなたはかけがえのないそのなかの1匹でしょう。というと、どうして? というの。窓の敷居に止まっていたテントウムシさんまでそんなの常識だよ。私たちは誰か1匹が怪我をするとみんなが痛いし、1匹が嬉しいとみんなが嬉しいし、そんなこと人間て分からないのかなアというの。不思議ねえ。あれから私と話をしたがっていろいろなお友達がきてくれるけどシオカラトンボさんはね、春の国と夏の国と秋の国があって、昨日きたシオカラトンボさんは夏の国に住んでいるですって。もう何億年も前からずう−っと、これからもずっ−と、ところでメグはどこがいいかって聞かれたの。私、雲が光っている夏の国がいいなって言ったの。メグがこの病院にいなくなったら夏の国に遊びにいってるのでお母さん後から来る時間違わないでね」 
 メグの目は遠くの方を見ていました。それからしばらくしてメグは病院からいなくなりました。一目合ったとたんメグを好きなってしまった従兄弟のオニヤンマが永遠の夏の国の話をしたところ、メグはすぐ行きたいと言いました。
「オレは数日後にいかなければならないけど、メグさんはまだ病院に半年もいられるんだよ。みんな待っているからそれからでもいいじゃない。」
 オニヤンマがメグに言いましたが、メグは病院は飽きたのでみんなと一緒がいいとオニヤンマにせがみました。
「そんなに言うならいいよ。オレ、一緒で嬉しいけどサ、あとのことは知−らない」
 ご機嫌なオニヤンマはランドセルを背負ったメグを背中にのせて病院の庭を一回り旋回したあと雲を目指して飛んでいってしまいました。
 その数日後近くの教会でメグのお葬式がありました。その日は何故かトンボやチョウがたくさん飛んでいました。セミがいつもよりたくさん鳴いていました。
「メグちゃん、いないよ。昨日、夏の国の妖精になっちゃたよ」  
「そこにあるのはメグのぬけがらだよ」  
「今週の終わり僕も夏の国にいくんだ。言付けあるなら聞いておくよ」
蝉やトンボやチョウが集まった人間に話かけましたが言葉のわかる人はいません。メグのお母さんと主治医のお医者さんだけが何か空から聞こえるような気がしてずう−と空を見ていました知らない人は両手にいっぱい程の灰と骨をみてメグちゃんがこんなに小さくなってしまって… と悲しみましたが、それはメグのウンチみたいなものです。そんな中にお話をた笑ったりしたメグちゃんが最初からいるわけないものね。