真説
 
 浦島太郎伝説によると浦島太郎は、助けたカメに連れられて龍宮城に行き乙姫の歓待を受け三日滞在したが帰って見ると三00年経過していた。ということになっています。浦島がカメの背中にまたがり海底の国にいった、というのには無理があります。魚のように呼吸できない人間は海の底では5分間も生きていられないからです。浦島太郎はカメの甲羅似円盤型の超光速のカプセルに乗って海面をすべるように滑空し宇宙空間に飛翔していたのです。北の空に主星が4等星という地味な星座があります。子熊座と琴座の間に横たわる竜座です。4等星のα星はツバ−ン(竜)と呼ばれる暗い星ですが、5000年程前ピラミットが建てられていた時代までは今の北極星の座にあった由緒正しい星です。その第5惑星は地球と環境がよく似ていて、知性体も地球の人間とほぼ同じ外観をしていました。違いは進化の程地り3年ほど進んでいて、生理的差異として盲腸がないことと、第三大臼歯が上下4ケないことぐらいでほぼ地球人と同じです。                                      
 この物語は江戸時代の中頃、地球観光にきていた宇宙人の娘と恋に落ちた漁師の青年のお話です。この青年はツバ−ン星の第五惑星で三日暮したとされていますが、三日というのは過ぎてみてからの印象で本当のところ、三0日だったか三00日だったか、自分でもよく覚えていないのです。いずれにせよ、見慣れないご馳走やタイやヒラメの踊りが面白くて時間があっという間に過ぎたわけではありません。三千世界の何処にいっても苦しみと退屈な時間は果てしなく長く、喜びの時間は極めて短いものなのです。愛する二人にとって毎日時間は瞬時に過ぎていくのです。
 時間というものはどこでもいつでも一定ではない。時間は空間や質量やエネルギ−や光りの速度等と相対関係にあるとアインシタン博士が発見しましたがもうひとつ時間は人間のの在り方に大きく左右されるものなのです。
 太郎が宇宙人の娘と出会ったのはある夏の午後、入江に繋いである舟の修理に行ったときでした。華やいだ娘の声がするので見ると美しい二人の娘が渚で戯れているではありませんか。岩影に隠れて見ていると透き通るような衣装をまとった二人はやがて空中を浮遊しながら踊り始めました。あんぐりと口を開けて太郎はその様を見ていましたが踊り終わった時思わず拍手をしていました。
 岩影の太郎に気付いて恥ずかしそうに微笑みかけた宇宙人の二人の娘は伝説の乙姫はかくもあらんかという美少女でした。賢そうで、気立てが良さそうで、可愛くて(ツバ−ン語での娘の名はアルハベットやカナの表音文字ではとても表現し憎い。二人のうち姉は既に婚約していてこの物語の乙姫は未婚の妹のこととする。これ以降単に乙姫という)
(いやな人、ずっと盗み見してたのね) 
(昔三保の松原で下着を盗られたお友達がいたけど、あなたなのね)
 うえの娘が太郎を睨みました。
(そりあ、隣村の白竜のことだんべ、おらあそんな悪さはできねえよ、舟の修理にきて見とれていたんだよ。踊りも姿形もあんまり奇麗でとてもこの世のものとは思えねエ… )(それはどうも有り難う)
 それからいろいろ話すうち宇宙人の娘も太郎を気にいってしまいました。
(悪い人じゃないみたいね)
 上の娘が言いました。
 (そうみたいだけんど自分のことはよくは分かんねえ)
 太郎が呟きました。
(私の国にいったら、いろいろ教えてあげるわ。一緒にいく?)
 下の娘に誘われた時太郎はボオ−ッとしてしまい 
(オレでよければ)
 太郎は一も二もなく承知してしまいツバ−ン星の第五惑星までついていってしまったのです。
 そこではすべてが夢のようで天国というのはこういうところかと思うほどでした。そんな中で一つだけ心の隅に引っかかっていることがありました。
 ひそかに思いを寄せていた幼馴染みのなぎさのことです。なぎさとは婚約していたわけではありませんが太郎に好意をもっていたように思われてなりません。太郎も憎からず思っていたのです。
 抱きあっている時でもなぎさのことが心をかすめると感のいい乙姫はすかさず
(私に何か隠しているでしょう。両親も早く死に別れて一人暮らしだし、特に好きなひとはいないと言ったのはウソなのね)
 ときつい目をして太郎に問いただしました。そんなことはないと何度も否定したのですが、
(宇宙人はウソが嫌いなの、ねエ 正直に言って、怒らないから)
 宇宙人も女は女なのです。太郎はバカ正直に実はと心の内を話してしまいました。
(…でも、一緒になろうと言ったことは無いんだ、俺のほかに好きな男がいたかもしれねえし、よく分からねえ。もし誰かと結婚してればいいけど、もしそうでなくて、俺のことを待っているのかと想うと辛い、一目あって確かめてえんだ。あれからずいぶん経つている気もするし、きっと結婚しているとおもうよ)
(でも、もし太郎のことを待っていて、結婚して、といったら、私はどうするの?)
(…あなたのことを話して諦めてもらうよ)
 乙姫はしばらく黙っていましたが、瞳が一瞬緑色にキラッと光りました。
(じゃ、いってらっしゃい。一人用の超光速のカプセルを用意するわ。未練を断ち切ったら一日で帰ってきてね。泊まったらだめよ、もし、未練が残って帰れないようなことになったらこの箱を開けてみて、でも開けないで帰ってきてほしいの)
 太郎が帰った世界は三年後の世界でした。
 仲間の漁師は訪ねてきた太郎をみてびっくりして言いました。
(今まで何処さいっていたんだ。漁にいって波にのまれたんだとみんな思っているよ)
(ううん、そうなんだけど、遠くの島に流れついてやっと帰ってきたんだ。ところでなぎさはどうしている)
(なぎさは可哀想なことをしたぞ、おまえさんに惚れてたのが分かんなかったんかや、なぎさは嫌がっていたんだがな、おめえは行方不明だし両親が脅したり泣いたりして毎日責めるもんだで昨年船問屋のバカ息子に嫁いでよ、ほんの十日前のことだけど流産したあと死んじまった、三本松の下になぎさの墓があるから線香でもたててやんな)
 太郎は真新しい白木の卒塔婆の前にいつまでも座っていました。 
(悪るかったな なぎさ 可哀想いそうに… )
 思い残すことはもう何もなくなった現在、一人用の宇宙船に乗って帰るばかりなのですが太郎は全身の力が無くなって体が動きませんでした。自分が帰らないため乙姫の悲しむ姿を思うと心が乱れました。しかし今まで自分だけ幸で、これからも幸でいいのだろう
か、なぎさには一日でも幸な時があったのだろうか、間もなく小型宇宙船が自動的に離陸してしまうのを知っていましたが太郎は物思いに沈んだままでした。
 日が落ちて深い海の底のような空が大きなお椀のように太郎の上を覆いました。そんな夜空の一点が震えるとキラッと一番星が光りました。太郎がボンヤリ暮れていく空を見ていると村祭の踊りの輪に集う子供のように(ボクもでる)と待ちかねたように二番星がおどりでました。やがて
(オレもでる)
(アタシもでる)
というように小さな夜空の幕を開けて次々と村の子供たちが姿を現しました。その中にかすりの着物姿の元気ななぎさの姿も見えました。
 放心した太郎が見ているまえで、日没のあとの空はたちまち一面の星空になっていきまし
た。そんな中を一瞬あたりを昼のように明るくしたかと思うと海辺の松林の影から光りの矢が飛んでいくのが見えました。無人の宇宙船が飛び去っていったのです。何処えも行くところのなくなった太郎は乙姫の呉れた小箱の紐をほどきました。小箱からは白い煙がでたあと覗くと何もありませんでした。猛毒のガスに触れた太郎はみるみる老人となり白骨となり一筋の煙となって消えていきました。未練を残して帰らない太郎を乙姫は許さなかったのです。