格闘小説  (1/4)

「正面に礼!互いに礼!……始め!!」
審判の声が場内に響く。
「ついに、全日本拳道選手権も決勝戦……手合わせ願おう」
「わしの勝手な都合で悪いのじゃがこの勝負、手短に済まさせて頂く」
「決勝戦まできて秒殺宣言か、大した自信だな。じいさん、ダテにこの大会を連覇してないな」
「いやいや、そんなたいそうなことを言うつもりはないのじゃよ。ただ、この歳になると長期戦は体にこたえるのでな。ここ最近、腰痛がことのほか辛くて……。おぬしの歳ではその若さが追い風にもなろう。しかしこの歳になると敵は2人、目の前の敵と己の老いた体じゃ」
「なるほど。今の話、明日は我が身と思っておこう」
「な、だから今日のところは老人をいたわると思って秒殺されといてくれんか? このあと、孫の誕生会にも行かねばならんのじゃよ」
「断わる」
「な、なんと! この男は孫を想う老人の心が分からんのか! まったく最近の若いもんは……。しかし、おぬしもわしの歳になってみれば分かるはずじゃ。孫の誕生会というものはこれはこれは嬉しいもんでな、自分の誕生日以上に、そして恋人同士のクリスマス以上に大切なものなんじゃ。それを想像してみてくれんかの」
「想像してやってもいいが、試合の後だ」
「あとじゃ駄目なんじゃよ、今じゃよ今!『今』を大切に生きるべきだとは思わんのかね、今だけよければいいのじゃよ。まったく最近の若者らしくもない。だいたい、老人には席をゆずれと小学校のときに習ったじゃろ。それじゃよ、それ。老人に席をゆずるのがモラルなら、優勝をゆずるのもモラルじゃ。どうしてこんな簡単なことが分からんの……。いや、同じ拳を道とする身のおぬしがそんな心無い青年とは思いたくない。な、おぬしはそんな心無い青年ではないと言ってくれ、違うと言ってくれんか」
「話の途中で悪いが、こちらからいくぞ」


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