ケータイバトル  (1/3)

  センター街入り口。マヌケ面してしゃがみこむ男が一人。悪趣味に光るサングラスの奥の目は、道行く人の流れを追うでもなく追わぬでもなく宙にフワフワと漂うばかり。そんな男、全身をビクリとさせると、にわかにモゾモゾと立ち上がり、そしてケータイをジーンズのポケットから引きずり出し、これを耳にあてる。「おお、マキ?」

  こんな時間に電話なんて珍しいじゃん。ううん、全然OK、OK。ちょうど今、マキの声を聞きたいな、って思ってたとこ。ん、今? 今ね仕事中、仕事中。かなり忙しいんだ。だからゴメンあまり長話もまずんだけどさ、何? いつもと違う?音が?周りの音? ちょっと今、外なんだよ。そうそう、技術部の俺でも営業についていかなきゃいけないこともあってさ、俺だって会社の中ばかりいるわけじゃないんだよ。あ〜あ、週休1日制の我が社が憎いよな、今日が仕事じゃなかったら、週休2日制だったら今頃マキと遊びに行ってるのになあ。いやホントこの景気でしょ。仕事忙しくってさあ、大変なんだよ。マジ疲れてたんだけどマキの声を聞いたら元気出てきちゃった。よーし、仕事頑張るぞー!じゃ、電話ありがとね。いつもマキから電話してもらってるよね。なんか悪いから次は俺から電話するよ。うん、じゃあまたね。

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