ナノテク・マシン

部屋に入ると、雑然とした研究室の片隅で教授が小躍りしていた。
「おお、いいところに来たな。ちょっとこれを見てみろ」
「いきなり何ですか」
「ちょうどナノテクマシンが完成したところなんじゃ」
「これって、どう見てもただの皿にしか見えないですね」
「マシンは皿の中じゃよ。とはいっても目で見える大きさじゃないがな」
「そのナノテクマシンには、どんな機能があるんですか?」
「自分と同じマシンを作る機能があるんじゃ」
「ナノテクマシンがナノテクマシンを作るんですか。ナノテクマシンがナノテクマシンを作って、そのナノテクマシンがさらにナノテクマシンを作って……。それじゃあ、どんどんナノテクマシンが増え続けちゃうじゃないですか! 地球上、ナノテクマシンだらけになっちゃいますよ!」
「そう慌てるでない。話は全て終わってない」
「どう違うんですか」
「この皿の中、用意したナノテクマシンには二種類あるんじゃ。仮に名づけてアルファとベータとしようかの」
「二種類であることに何か意味はあるんですか?」
「さあ私にも分からんな。でも、そうなんじゃ。でな、この皿の中で二種類のナノテクマシンが動き回るんだが、このときアルファとベータがぶつかるときがある」
「ぶつかると何かが起きるんですね」
「何かが起きるときもあれば、何も起きないときもある」
「なんすか、それ」
「そのアルファとベータの相性の問題じゃな」
「相性なんてのもあるんですか」
「無論、ある。そして相性がいいと、その『何か』が起きる」
「どうなるんですか」
「するとそこで初めて、アルファとベータの間でやりとりが行われるんじゃ。新たなナノテクマシン生産の準備が始まるんじゃ」
「なんかスゴイですね」
「そして新たなナノテクマシンを生み出すエネルギーを得るために、ベータはアルファに取り込まれるんじゃ」
「カマキリを彷彿とさせますな」
「そしてついにナノテクマシンが生産されるんじゃ、それも沢山。その数は数千にも及ぶ試算じゃな」
「数千! 親機も数に入れると数千プラス1ですか」
「まあ、生産したアルファはここで酸素と二酸化炭素に分解されるんじゃがな」
「それでも数千の新しいナノテクマシンが残されるわけですね」
「いや、そう簡単でもないんだ。このナノテクマシンはまだ未完成品でな、それから自己学習が行われて完成品になっていくんじゃ」
「ナノテクマシンが成長するんですね」
「だが未完成品にとって地球環境はきびしく、完成品になるのは2つか3つ。場合によっては1つかも知れない……」
「他のは未完成品のままで終わるんですか」
「そのまま酸素と二酸化炭素に分解されて終わりじゃ」
「2個のナノテクマシンが2個のナノテクマシンを作る……」
「4個のマシンが平均4個のマシンを、10個のマシンが平均10個のマシンを作る計算じゃな」
「それ、意味あるんですか?」
「お前の人生ぐらいには意味があるな」
「意味、ないんじゃないですか?」
「お前の人生と同じくらい意味がないかもしれん」
雑然とした研究室の片隅で二人は各々何かを思い皿を見つめていた。