紺屋の白袴

夕暮れの中、部活帰りのその二人の姿があった。
「なあ、ひとつ思うんだけど」
「なんだよ、突然に」
「『コウヤのシロバカマ』って言うだろ?」
「そんなコトワザ、急にどうしたんだよ」
「紺色に染めるような染物屋が白い袴でおかしいね、って話だろ?」
「おかしいネ、かどうか分からないけど、そーいうことだよな」
「おまえ、紺屋さんを見たことあるか?」
「ないけど。 見たいの? そんなこと俺に頼まれても困るんだけど」
「そうじゃなくてさ。考えても見ろよ」
「何をだよ」
「蓄音機がレコードになり、レコードがCDになり、CDがMDになり、そしてmp3だ」
「それが紺屋と関係あるのか?」
「その時代に、いつまでもコトワザだけ『紺屋』と『袴』でいいのかよ」
「そうだなぁ。なんかピンと来ないよな」
「だから、俺達が時代を変えるんだよ」
「時代?」
「紺屋の白袴よりも現代人にビビッとくるようなコトワザを作るんだよ」
「なるほど。それはいい考えかもしれないな。後世に名を残すチャンスじゃん」
「何かないかな……」
「……」
「化粧品アドバイザーのすっぴん」
「それ、なかなかいいじゃん」
「エステティシャンの肥満、ってのもあるかな」
「それは笑えるかも。それでエステを勧められても説得力ないよなぁ」
「医者のカップラーメン」
「それ、普通にありそうな話だな。そもそも医者の不養生、でいいんじゃないの?」
「医者の不養生をより現代的にしてみたんだけど」
「いや、医者の不養生でいいよ」
「じゃあ、警察の万引き」
「信じたくないけど、そーいうのもいるかもな」
「警察の飲酒運転」
「それは結構、問題だな」
「警察の覚せい剤常習」
「それ、ブラック過ぎないか?」
「警察の事件もみ消し」
「もしかして警察は嫌いなの?」
「いや、そーじゃないけど」
「もっとマイルドにしろよ。俺達のコトワザを、未来の子供達が学校で教わるんだぜ?」
「なるほど。大事なポイントを見落としていたよ」
「ドンマイ。頑張ろうぜ」
「あ、思いついた。焼肉好きのカーネル・サンダース」
「別にカーネルおじさんだってケンタッキーのフライドチキンばかり食べてられないだろ」
「でも、このコトワザいいだろ?」
「ああ、ちょっと気に入ったかも。でも……」
「ん? なんだよ」
「俺達の名を残さずカーネルおじさんの名前を残してどーすんだよ」
「あ、そっか……」
どこまでも悩みの尽きない二人であった。