スズメ百まで

仕事帰りに二人で立ち寄ったカフェバー。ちょっと昔の流行り曲が店内に流れる。
「あ、この曲って何だか懐かしくない?」
「ああ、聴いた事ありますね。高校の頃に流行ってましたよ」
「俺は大学生だったかな」
「……ところで先輩、その右手の動きは何ですか?」
「え?……ああ、これか」
「右手でチョイチョイって」
「昔、バンドやってたんだよ。音楽を聴いてると、ついギター弾いてるつもりになっちゃってね」
「へぇー、ギターやってたんですか」
「体で覚えた動きはこーいうときに出ちゃうね」
「自然に出る動きってありますよね。……ところで先輩」
「ん? なんだ?」
「なんで僕の手を触ってるんですか?」
「え? ……ああ、これか。俺、むかし手相占いのアルバイトやってた事があってね。その癖がでちゃったかな」
「なるほど、自然に出る動きってありますよね。それにしても、そんなアルバイトもあるんですねえ」
「まあ、大して金にはならなかったけどな」
「でも面白そうですよ。……ところで先輩」
「ん? なんだ?」
「さっきから先輩、俺の足を踏んでるんですけど。ギュムギュム、って」
「え? ……あ、ホントだ。昔、うどん打ちの修行してたことがあってね」
「ああ、うどん生地を踏むその動きでしたか。覚えた動きが自然に出ちゃうことって……ところで先輩」
「ん? なんだ?」
「この体勢、痛いんですけど」
「え? ……俺ったらいつの間に卍固めを、イカンイカン。昔、プロレスに憧れた事があってね」
「なるほど、動きが自然にね……ところで先輩」
「ん? なんだ?」
店内にはヘルメットをした頭を床につけてコマのように回転する先輩と、それを見守る後輩がいた。