瞬間移動

研究室の扉を開けると、博士がニコニコしながら出迎えた。
「おお、来てくれたか。待っておったぞ」
「博士、僕に手伝える実験って何ですか。また何かの実験台ですか。またモルモットですか」
「モルモットとは聞こえが悪いことを。君には歴史的瞬間の立会人になってもらおうと思ってな」
「で、今日は何をやらかすおつもりですか」
「やらかすとはまた聞こえが悪い。今回はスゴイんじゃ。世紀の大実験じゃよ」
「博士はいつも大げさですからねえ」
「実験が終わる頃には、今日ここに立ち会えた事をきっと誇りに思うハズじゃよ」
「だから何をするんですか」
「聞いて驚け、なんと転送装置を作ったんじゃよ」
「転送装置? 何か物を送る装置ですか、宅急便みたいに」
「宅急便とは違うな。アッという間に物を送ることができるんじゃ」
「それ、本当だったらスゴイことですよ!? 物流が、経済が、国家が……世界が変わる発明じゃないですか!」
「そうじゃ、今から世界を変えるんじゃよ、おぬしが」
「今から世界を変えるんですか……え、俺がですか!?」
「ささ、ここに立つんじゃ、ここ。カプセルが閉まるから頭をぶつけんようにな」
「博士? 送るって人間をですか? 俺をですか? なんかここ、窮屈じゃないですか?」
「下らん質問は置いとくとして早速、世界を変えようじゃないか。おぬしは、どこへ行きたいのかね」
「どこって、急に言われても……じゃあ、ハワイに」
「そんな勝手を言われても困る。行く先にも装置が必要に決まっておろうが」
「じゃあ、装置はどこにあるんですか」
「共同研究してるマサチューセッツの研究所だけじゃ」
「選びようがないですね。じゃあ、マサチューセッツで」
「ならばご希望通り、マサチューセッツに送ってしんぜよう」
「あ、博士? 何の準備もないんですけど。あの、パスポートは?」
「これから世界が変わるんじゃ。細かい事は無視、無視。では早速、マサチューセッツへGOじゃ! 3秒前……」
「博士? でも、やっぱりパスポートがないと」
「……2秒前……」
「だからパスポートが、博士?」
「……1秒前……」
「博士? あの、博士?」
「……GO!」
「あ……」
シュウウイイイイイイイイイイインッ! と装置が音を立てる。

少したって、研究室の電話が鳴った。トゥルルルルル、トゥルルルルル……
「博士! やりましたよ、博士! 僕、マサチューセッツにいますよ!!」
「ホントか! やったな、おぬし。こりゃ奇跡じゃよ。花瓶を転送したときは失敗だったのに」
「今、なんて言いました?」
「いいんじゃ、いいんじゃ。でかしたな、人間ファックスの完成じゃよ! ともかくオメデトウ! こりゃお祝いをしなきゃな」
「ところで博士、そっちに戻るにはどうしたらいいんでしょうか。僕、お金もパスポートも……」
「ああ、その心配なら無用じゃ。こっちに人間ファックスの元原稿が残っておるからな。じゃあ、ゴクロウさんじゃった!」
そして電話が切れた。





そして、Another Story。


「だからパスポートが、博士?」
「……1秒前……」
「博士? あの、博士?」
「……GO!」
「あ……」
シュウウイイイイイイイイイイインッ! と装置が音を立てる。

「って、博士。何も起きないですよ?」
「いや、うまくいったハズじゃ」
「でも、何も起きてないじゃないですか」
「きっとうまくいったハズなんじゃよ、きっと……」
少したって、研究室の電話が鳴った。トゥルルルルル、トゥルルルルル……