絶体絶命  (1/2)

「俺、ホントにここで死ぬのかな……」   柱に縛りつけられ、そのときを待っていた。熱帯魚に餌をやるフードタイマー、時間は夜の十二時にセットされている。その「とき」が来るまで残り一時間。もう既に3時間はこうしている。最初の一時間は体をよじりもがくのに費やし、次の一時間は覚悟を決めるのに費やし、この一時間は水槽の熱帯魚を見ながらボーッとして費やした。あと一時間経てば魚は餌をもらい、俺は死ぬ。小説でよく読んだような密室トリックの完成である。まさか自分がその出演者になるとは思ってもみなかった。こうして水槽を眺めていると「かわいい熱帯魚達に殺されると思えば、それも悪くはないかな……」なんだかそんな気がしてくる。


「かわいい熱帯魚達に殺されると思えば、それも悪くはないかな……」本当のところ、なかなかそうは思えないが、そうとでも思わなければやってられないのも事実である。   しかし、目の前の現実はもっとかわい気のないものだ。フードタイマーからはワイヤーがのび、その先には固定された拳銃がある。十二時になってワイヤーがトリガーを引けば、そこでズドンッ……である。実際には、あそこから出てて来るちっちゃな鉛の弾が俺を殺すのだ。「やっぱりハードボイルドは弾丸で死ななきゃ嘘だろ……」なんだかそんな気がしてきた。


  ハードボイルドが布団の上で親族家族に見守られながらの大往生じゃ駄目だと思う。やはり弾丸、これにつきる。ナイフも可。ハードボイルドに生きたのならハードボイルドに死ぬのが道というもの。その点で言えば、今の俺は我ながら最高だ。これ以上のハードボイルドはない。ハードボイルドの極み、ミスター・ハードボイルドである。……正直なところ、なかなかそうも思えないが、そうとでも思わなきゃいられない。これでいいのだ。全てのことがこれでいい。今は心底そう思う……そう思うことにした。   ただ、完全にはハードボイルドに浸りきれない要素がひとつある。拳銃の向く先が問題なのだ。弾丸が飛んでゆくその先は俺ではなく、風船なのだ。実際には風船が俺を殺すのだ。思い直してみれば「俺の人生、風船みたいなものだったな。風船とともに散るのも悪くはないだろう」思い直せばそんな気もしてきた。

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