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人形焼

平成10年10月18日(日)

私の妻の実家は、東京の小石川で人形焼の店をやっている。「紀文堂」という名前であるが、浅草の「紀文堂」のグループとでもいうのか、名前をもらっている。

義父は戦前から「紀文堂」に勤めていたが、戦争でシベリアに抑留されてしまった。途中からパン工場で働かされたことが、命を救うことになったのかもしれない。そう言う意味では、お菓子作りはありがたかった。やっと帰ってきたときには財産も無く、また1からやり直しをする事になった。お金をためて、浅草の本店から「紀文堂」の名前だけもらい、やっと小石川に店を持つことが出来た。

義父は、人形焼や瓦せんべいを焼きながら、娘二人を育ててくれた。昔は若い職人も使っていたようであるが、今は一人で焼いている。座ったままで作業することになるのだが、これは結構つらそうである。今年80才になったが、まだまだ健在である。

紀文堂グループは何軒もあるし、他にも人形焼を焼いている店はたくさんあるだろう。今の時代であるから、大体の店は機械焼きであるようだ。下手な人間よりはよっぽど上手なんだろうけれども、機械では、どんなに頑張っても手焼きにはかなわないようである。義父の焼く人形焼は、非常に美味い。いや、実に美味い。この味は機械では出ないんであろうか。

その義父が、8月の始めに階段から転落して、肋骨を骨折した。肺の一部に穴があき、しばらく入院ということになってしまった。元来働き者の義父であるから、じっとしている事が苦痛になるらしい。私には考えられないが、働きたくて仕方ないという。じっとしていることの方が苦痛になるなんて、なんて不思議な世界なんだろう。

ついに、先日、仕事を始めた。実家に遊びに行ってきた妻が、お土産においしい人形焼を持ってきた。義父のことは多少不安だが、おいしい人形焼は大歓迎である。

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