富士山に登ることになったのはあまりに唐突だった。確かに以前から「富士山絶対登りに行こうぜ〜」という話はみんなとしていたが、まさか今年の夏に実現することになろうとは6月の僕には知る由もなかった。登ることに決めたのは本当に思いつきに近かった。7月2日の朝日新聞の朝刊1面に山開きを迎えた富士山の記事が載っていた。その朝焼けの写真があまりにも僕の心を捉えてしまった。
「うっわー!すっげーきれー!俺も見てー!!」
 動機は単純だった。しかしそれだけに決断も早かった。夏休みにどこ行くかまだ決めていなかった僕はその行き先を富士山に決めた。

 しかし僕の夏休みの予定にそう簡単にみんなが合わせられるはずもなかった。でももし誰も賛同者がいなかったとしても一人でも登るつもりでいた。幸いたっくんがこの話に乗ってくれた。
 たっくんは登山予定の22日午前中いっぱい足利で用事があった。だから用事が済み次第足利を発ち、中央道の談合坂P.Aで待ち合わせることになった。当然登山開始は夕方からとなる。できれば明るいうちに八合目まで登ってそこでゆっくりしたいとも考えていたが、富士山は夜登る人も多いというし、懐中電燈さえ持っていけば大丈夫だろうとも思った。どちらにしても朝日を山頂で見るためには夜登山は避けては通れぬ道なのだ。


 談合坂で16時半頃たっくんと合流し、一路富士山を目指すことになったが、雲行きがどうも怪しくなってきた。東京を出た頃はぎらぎらの太陽が容赦なく照りつけていたのに、山梨に入ると富士山の周りは厚い雲が立ち込めていたのだ。山頂も雲の中に隠れてしまっていた。雨なんか降った日には面倒なことになる。僕は、
「降るなよ〜、降るなよ〜」と繰り返し一人ごちながら車を走らせた。心の中では、
「これで雨が降ったら俺とたっくんとどっちの日頃の行いが悪いんだろ?」なんてことを考えていた。

 しかしスバルラインの終点、富士山の山梨県側の五合目に辿り着いた時、富士山を覆っていた厚い雲はすっかり姿を消していた。結局僕もたっくんも日頃の行いは良かったのだ。僕らはそれぞれ駐車場に車を止め、早速登山の準備をした。僕は一応登山だし上の方は寒いと聞いていたので、長ズボンを履いたが、たっくんは短パンだった。そりゃないんじゃないの?って僕が聞いたら、
「大丈夫だって、俺より舐めてるヤツらいっぱいいるし」といって周りを見まわした。なるほど、街中とまるで変わらないような軽装で登ろうとしている若者達がいる(う〜ん。。。若者って言葉使うのもちょっとおっさんかな〜)。一方で本格的な登山の格好をしている中年夫婦もいた。格好は実に様々だった。でも多分どちらも正解なのだ。富士山は日本一の標高を誇る山であり、登山者にとって一度は登ってみたい山であると同時に、日本を代表する観光地でもあるわけだ。五合目には土産物屋や露店がたくさんでている。いろいろな旅行代理店がご来光拝観ツアーを企画してるし、素人でも装備が全然登山向きでなくても登ってしまえる山なのだ。ただ一つ乗り越えなくてはいけない問題がある。高地特有の高山病に陥らないかどうかだ。酸素欠乏症になってリタイヤしないかどうかだ。ちなみに僕の会社の元同僚は以前富士登山に挑戦して高山病になってリタイヤした。それを聞いたときは彼をバカにしたが、高山病を甘く見ちゃいけない。僕もたっくんも念のため酸素缶を買っておいた。

 

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