二日目



羅臼の漁村

知床は今日も雨だった。

そして、萎えた。今日は羅臼湖へトレッキングするつもりだった。雨でも構うものかと思ってい
た。

しかし出発点である知床峠に着いて挫折した。横なぶりの冷たい雨。強風で車も揺れる。寒す
ぎる。そんな中四時間歩き続ける気力も無謀さも持ち合わせてはいなかった。明日天気が良
かったら行こう、そう心に決めて峠を羅臼方面へ下る。


            知床峠

下ったら雨は止んで熊の湯という無料温泉を見つけた。知床にはタダで入れる温泉が多い。
僕も干潮の時しか入れないセセキ温泉に向かう途中だった。今日は温泉巡りだな、そう心に決
めて熊の湯に漬かる。

羅臼側は時折わずかではあるが陽の光もこぼれてきた。そして海の向こうには国後島が見え
た。最近漁師がロシアに撃ち殺された北方領土。誤ってロシア側に入り込んでもおかしくない
近さだと思った。

長年北方領土は日本のものだ、いやロシアのものだとやりあっている。僕がつい考えてしまう
のは、そこに住んでた人たちはどう考えているのかということ。もとを辿ればそこは日本でもロ
シアでもなかった。日本人でもロシア人でもない人たちが国など関係なく暮らしていたのだ。


国後島遠景

セセキ温泉は残念ながら半分海に浸かった状態で、入ることは出来なかった。その先にある
知床で一番東にある相泊温泉には漬かることができた。

道路は相泊まででそこから先は行き止まり。陸から行ける最東端か。そう思いながら海を眺め
ていた。しかし気になったのは砂利道がさらに続いていたこと。行き止まりのロープが張られて
いたけど、これは車で行ってはいけないということであって、歩いて行く分には問題ないんじゃ
ないか、そう思わせた。

そんな時向こうから郵便屋さんが車でやって来た。ロープを外しに車を降りたときに向こうには
人が住んでいることを聞く。 歩いて行ってみようと思った。行ける所まで行ってみようと。それこ
そ他の人にしてみたらきっと無意味だけど、僕の旅の醍醐味なのだから。

そして僕は三十分ほど大きな石がゴロゴロして歩きづらい海岸線をひたすら歩いた。お陰で長
年僕の歩きに付き合ってくれていたトレッキングシューズが壊れてしまった。


            カモメの親子

崖と海の間の十メートルほどのわずかな隙間に簡素な家がいくつも建っていて、洗濯物も干し
てあったし、電気も通っていた。昆布の甘い匂いが漂っていた。ここの人たちは昆布漁で生計
を立てているに違いない。ウトロ側は観光チックだと思ったが、羅臼側は生活感が強いと思っ
た。でもその方が僕は好きだ。自然とちゃんと向き合っている気がしたから。

歩いてそして僕の目の前に新しい岬が突然姿を現した。この驚き。それがたまらない。歩かな
ければ見ることの出来なかった景色だ。多分観音岩と呼ばれる場所。そこまで行ってみたい気
もしたけれど、きっとそれではキリがなくて、人の手が消えた場所まで行って、僕は引き返し
た。


観音岩遠景

昼食にトド肉を食べ、シューズを買い換えた後再び知床峠へ向かう。天気も回復しつつあった
しもしかしたら羅臼湖にチャレンジできるかも知れない、そう思いながら。

甘かった。知床峠は相変わらずの暴風雨。とてもではないがトレッキングなどできる状況では
ない。そこは諦めて、カムイワッカ湯の滝で温泉に入ろうと思うが、増水で川を昇るのは厳しい
と自然センターの人に言われ、この日は早々に切り上げることになった。

今日の一句

潮騒を 聞きつつ渡る 石畳



三日目


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