---ホンジツのココロ---

『そで』


10代後半くらいだろうか?
朝の駅で、目にする一組のカップル
背の高い彼氏と、標準よりも随分小さい彼女。
美男美女というわけではない。
けれどわたしはこの二人を良く覚えている。
小さな彼女は、大きな彼氏のシャツの袖を
いつもギュッと握っている。
彼は彼女を気にかけるという風でもなく
いつも雑誌かなにかを読んでいる。
『袖を振る』という言葉がある。
『あんたなんかキライよっ』という意味なのだが
彼の袖は絶対に振られたりしない。
いつも彼女か捕まりやすい場所で止まっている。
可愛いな、羨ましいなと毎日見ていたら。
昨日、彼女と目があってしまった。
思わずお辞儀をすると、彼女もペコリと頭を下げた。

先日、帰宅途中に花火を見た。
大学生くらいの男の子や女の子が、
大騒ぎをしながら花火をしていた。
その中の一組のカップルの女の子が
彼氏の袖をギュッと掴んでいた。
女の子は美人ではなかったが、彼はなかなか男前だった。
いい男に袖を振らせないためには、袖をギュッと
捕まえてしまうのが良いのかもしれない。

ああいう可愛らしいことはしたことがないなぁ。
二十代も真ん中を過ぎてからやっても、
気持ち悪いだけかもしれない。などと考えていたら。
花火がパーッと上がった、メインイベントなのだろう
歓声が沸き上がった。
それを聞きながら思い出した。
男の人の袖をギュッと掴んでいたコトがわたしにもある。

高校時代の甘酸っぱい思いで、ではない。
小学生の時のことだ、相手も格好いい男の子ではない
父親である。仕事、仕事で忙しいのに
花火大会に連れていってくれた、
『トウモロコシ食うか?』
『ジュースはいらないのか?』
普段の埋め合わせのつもりだろう、
父は欲しいモノは何でも買ってやるといった風だった。
花火大会になると必ず出てくる、あれは何というのだろう?
蛍光のチューブが目に入った、今なら欲しいとは思わないが
お祭り気分のせいだろう。
『キレイだな、欲しいなぁ』そう思った。

その気分は父にも伝わったのだろう
『買っておいで。お父さんはビール買ってくるから。』
財布から千円札を二枚取り出した。
出店の周りには、子供達が駆け回っていた。
『アレを買ってくれ』とだだをこねる子供もいた。
わたしは、千円札は握らなかった。
代わりに父のYシャツの袖を握っていた。
『なんだ、いらないのか?』
不思議そうな父の顔をわたしはずっと見ていた。
なにも言わずに眺めていた。

父は袖を振らずに、わたしを肩車した
コレが、父にして貰った最期の肩車になった。
父と出かけた最期の花火大会でもある。
いまでも、花火大会は大好きだ。
派手だし、綺麗だし、なんといってもただである。
今度、行くときには浴衣を着て、
出来れば男の人の袖をギュッと掴んでみよう。
もっとも、掴む袖があればの話しだが。

 

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