★印;心に残ったフレーズ  ※印;しば子のコメント

HOME
しば子の本棚へ

青山繁晴

「平成」  文藝春秋社  「平成」PRページ(byえるぜさん)へ

※「文學界」4月号に掲載された小説を単行本化したもの。
 本の帯には「あのときが、すべてのはじまり  昭和64年1月7日午前6時33分。 時代を抉る迫真の文学」と書かれてございます。

 「あのときが、すべてのはじまり」

 これって、自分の人生に置き換えても言えることなんやけど、さらに踏み込んで「江戸時代以降の日本」「明治時代以降の日本」「第2次世界大戦以降の日本」と考えると、かなり重く、ずっしりと感じられる。

 昭和天皇崩御……これって私が中学3年生の頃の話。当時の私は、受験勉強と部活動に一生懸命でこの頃の報道についてはほとんど記憶に残ってへん(そもそもあまりテレビを見ない中学生やったし)。サッカーやラグビーの試合が「天皇が危篤だから」という理由のもとに自粛されてたってこと、どんよりとした中で大葬の礼が行われて、どのチャンネルを回してもその中継がされていたってこと以外の記憶はない。

 「平成」は、そんな昭和天皇崩御の報道に携わっている楠陽の目から通して見た「昭和天皇とは?」「今、日本の国にある”真昼の狂気”とは何か?」ということを鋭く抉った作品。

 私は、本を読んだ時は「ここのフレーズが気に入った」と書きとめておくのですが、この本に関してはそれが出来なかった。本のワンフレーズだけやなく全体から感じる「何か」があったからだ。

 作品の中のワンフレーズだけやなく全部を読みとおして何を感じるか?が問題やと思うのです。

 私のように、「昭和天皇崩御」についてほとんど記憶のないあなたにも非常に面白く読みやすい作品であると思います。
 まるで映画のように展開していくストーリー。冒頭のグレーホワイトの雨のシーンから、赤黒い昭和天皇崩御の瞬間、その後、ラ・ボカの港から飛び立っていく白い鳥の姿、赤いドレスを身にまとい冬だというのに汗ばんでいる踊り子の姿……。

 ただ、読みやすいだけやなく、読んだ後に「私の今生きているこの国って何だろう?」「私が今生きているこの社会っていうのは何だろう?」という問いかけが残る作品です。天皇が崩御して14年経った今だけではなく、これから先、読み継がれていくべき作品の一つであると思っています。

 微妙なバランスの上に成り立つストーリーの緊張感、そして著者が投げかけている現在の日本社会への疑問。

 私は、ヒロインのいう「陽さんが言ったことは、本当だと思う。ただし薄皮だけ」「薄皮の中に何があるか、陽さんは気付いているの」という言葉を後に引きずっている。
 
 薄皮の中にあるこの国の真実とは何か?私達が真に幸せになるために見つめなければ、考えなければならないのは何か?

 そのことが読後に心にじんと響いてきます。日本人は、「私達の国家が誇り高くあるためにはどうあるべきか」「国民である私達がどう生きていくべきか」「そもそも私達が生きている、この”日本”という国家は何か?」ということに鈍感すぎると思うのです。
 日本人はとても優秀で、日本という国は素晴らしい国のひとつであると私は考えています。でも、その中で"日本の中で生きていく私という人間は一体どんな人間なのか?”"この国で天から生を受けて来た私って何?”っていうことを認識している人はどれくらいいらっしゃるのでしょう?

 戦後の高度成長の中で生まれた私、バブルの絶頂期の中で思春期を迎えた私。この本に出会わなければ、「私が生まれた、私が属しているこの国は一体どんな国なのか?私が生まれる前にこの国を築いて来た人々は何を考えていたのか?」「この国で幸せに生きていくためには何を考えなければならないのか?」ということに思いが至らないまま生きていたように思います。

 非常に読みやすく、ともするとそのまま読み流してしまいかねない作品ではあるけれども、「日本という国はどんな国なのか?」「その日本で私はどう生きていくのか?」ということを考えながら読んでいただきたい作品やなぁと思います。
 この国にある金銭至上主義、幼児虐待、人々が自分以外は信じられなくなっている社会……そこの奥底に潜んでいる「真昼の狂気」を察することが、感じることが出来れば…ト思います。

 毎日、会社のために頑張っておられるあなた、夫やその他の家族のために自分を犠牲にして生きていると思っておられるあなた、日本の国に対して期待をもっておられないあなた、自分の人生が大事に出来ていないと感じておられる、そんなあなたに是非、この作品を読んで頂きたいです。