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て が み  てがみ
さくら
おまけのさくら


てがみ

こんにちは、みなさま、お元気ですか。
私は、ふたたび勉強の毎日です。
カツラ並木の緑が、雨があがるたびに濃く塗り重ねられていく下で、
ドウダンツツジの白い小さな花がさざめくのや、
スズメやオナガが喧嘩しながら飛び交うのなんかは、
学生たちの群れに負けないくらい賑やかです。
そんなざわめきからは少しはなれて、
校舎の最上階の隅にある私の研究室は、
今のところ静寂に包まれています。

このあいだ、図書館へ行った帰りに、
野原一面のレンゲを見つけました。
自転車を止め、しゃがみこんで摘んでいたら、
いつのまにか子供たちが集まっていました。
私のそばで摘んでいた女の子は、持って帰って
お母さんにあげるんだって。
小さな手にそんなささやかなおみやげを持って、
いそいで帰った幼い頃のことが、
やさしく思い出されます。
今の私は誰にあげようかな。

何か大きなことをやってみたり、
どこか遠くへ行くのもいいけれど、
こんな穏やかな日常もいいな、と思います。
やりたいことはたくさんあります。
やらなくちゃいけないことも、もちろん。
忙しくても、日常が雑多なもので埋められないように。
大好きなものを、裏切らないように。
何かを感じる心を持ち続けて
歩んでいきたいと思います。

みなさまは、いかがお過ごしですか。
またお会いできるのを、
そうしていろいろなお話を聞けるのを、
本当に楽しみにしています。
では、また。
                                      
                   雨あがりの5月の日曜日に


さくら

 もう、さくらも終わりだなあ。

 桜の木の下で、人々が言った。
華やかに、あふれるように咲いていた桜はあらかた散って、
赤味のある葉が開きはじめていた。雨あがりのアスファルトのうえに、
花びらがはりついていた。僕はそれを踏んで桜を見上げ、
ぎゅっと唇をかんだ。

 あいつももう、終わりだよな。
 
 そんな声が聞こえていることを、ずいぶん前から僕は知っていた。
聞こえないふりをしていたわけじゃない。だけど、終わりだと言われたって、
どうしろと言うんだ。自分でも、感じていた。勢いも、輝きも、熱っぽさも、
なくしてしまたかもしれない。でも、僕はまだ終わりじゃない。

 最後のひとひらまで散っていこうとする桜を、僕はぼんやりと眺めていた。
花は散ってしまう。かわりに、やわらかそうな葉がこぼれだしている。
これから夏に向かって精一杯広がって、その青さを増し、
沢山の毛虫を養うんだろう。葉の陰には、小さな実もつけるんだろう。
その実こそが、桜の、花を咲かせる理由なのではなかったのか。
広がりはじめた葉は、桜の木の、新しい季節のはじまりなのではないのか。

 もしかしたら。
 さくらは、散ることでしか前に進めない。
 散ることでしか、明日を生きられないのだ。

 僕の人生もまた、続いていくのだ。花が終わったら、葉を広げよう。
日の光を受けて、大きく呼吸しよう。静かに実を育てよう。
そしてまた、次の季節になったら花を咲かせよう。
春のあとには夏、が夏のあとには秋が、冬が。
 そして、冬のつぎには春がくる。

 新しい葉は、よく見ると美しい。僕は、桜を祝福してやりたくなった。
 何かを失ったわけじゃない。一仕事終えただけなのだ。

  がんばろう、お互いに。まだ終わりなんかじゃない。


おまけのさくら おまけのさくらだなんて、
つけたしのようなタイトルをつけてしまったけれど
    上の<さくら>よりもずいぶん先に書いたものです(^^;


その風景は音もなく
ただ動きつづけている。
世界中が息をとめているかのように。

 さくら が ちる

桜の季節のたびに
私はどこか変わっていく。
桜は昔と変わらずに咲いているが。

 さ くら が ち る

散っていくのは命ではなくて
抱いていた想いでもなくて
昨日なのだと思えばいいではないか。

 さ   く  ら が  ち る

散ることでしか明日へ進めないのだ、桜は。
散ることでしか希望を持てないのだ、桜は。
散りゆく姿に歓声が聞こえはしないか。

 さ       く     ら          が

そしてすべては風になる。
いくつもの昨日が、
桜のはなびらのように心に積もっていく。