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インスピレーション   
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 時々、微妙な話を書いてみたいと思フことがある。  感動なのかそうじゃないのか分からないような代物である。  そしてたぶん、今回のもそういう類なんだろう。 ------------------------------------------------------------------------------------  〜滑走〜  滑走についていささか考えてみたのです。  まず何事においても言えることですが、  ある物事についてよりよき見識を得ようとした場合、  何か別のものと比較対照してみるのが吉なのです。  そこで私は『滑走』と『疾走』を並べて見つめてみることにしました。  同じ走るという行為であるにも関わらず、  いくぶん『滑走』はズルいと思いました。  というのも、『疾走』が逐一足を動かさなければならないのに対し、  『滑走』は初速さえ得られれば後は慣性に従って、  どこまでもどこまでも惰性のままに進んでいけそうな気がしたからです。  そのことを8歳になる甥に教えて聞かせたところ、彼は急に泣き出しました。 「じゃ、じゃあ、ペンギンさんは怠け者だったの!?」  彼は氷の上を滑るペンギンを連想したみたいでした。  そういうことにはならない、と私は彼をなだめようとしました。  しかし無垢な少年の心は何と傷つき易いことであろうか。 「信じてたのにっ…!」  甥は現実から逃げるように全力疾走でどこかに行ってしまいました。  私は彼の母親(つまり姉ですが)に怒られたくなかったので、  渋々彼を連れ戻しに行かなければなりませんでした。  日はオレンジ色になりながら西に下っていきます。  早く甥を見つめなければならないのですが、  私は間違っても走りたくはありませんでした。  疲れるのは嫌いなのです。  ゆっくり歩いて甥を探していると、  ふと道端でローラーボードで遊んでいる子供に鉢合わせました。  これだ、と思った私は子供を突き飛ばしてローラーボードを拝借しました。 「なるほど、これは好い」  私は風を真っ二つに切ってアスファルトの上を滑走しました。  そして土手でうずくまって泣いている甥を見つけました。 「さあ。一緒に帰ろう」  私は甥に手を差し伸べました。  彼をソッポを向いて赤く腫らした目を川辺に投げかけました。 「やだっ! だってペンギンさんはズルいんだもん!」 「ズルくったって、悪いことにはならないんじゃないかなあ?」  小首を傾げながら甥が振り返りました。  私は彼を立たせてローラーボードに乗せました。  私も後ろから乗り合せました。  そして地面を蹴って走らせ始めました。 「凄い! 早い!」 「ペンギンさんも、きっと同じ気分なんだよ」 「うんっ」 「ズルくったって、いいだろう?」 「うんっ! うんっ!」  甥は風を顔の正面で受けながら、大きく何度も頷いたのでした。



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