Essay/Kategorie-1


 COLORS

 水溜りを飛び越えようとしたら、道を横断しようとしていた蛙を勢いよく踏み潰してしまった。 「あちゃっ」  と思った時には既に遅く、口の中で空気を潰したような音が足の裏から伝わった。  僕はしばしその場で固まった。  けれどもいつかは足を裏返してみなければならないのは分かっていた。  見てみると1万2800円のコンバースはコロイド状の緑色が付着していた。  僕は右足をぶんぶんと振り回したけれど、そんなことで緑色は離れなかった。  かといって丁寧に手で剥ぎ取る勇気など僕にはなかった。  せいぜい後方の水溜りで靴をゆすぐので精一杯だった。  けれども僕の意に反して、緑色は除光液でも塗ったかのようにあっさりと靴から離れた。  そしてそれは水溜りの中をたゆたうようにして綺麗なアーチ状を描き出した。  まるで一色だけの虹のような形だった。  そう感じた時、何気なく空を見上げると緑色だけの虹が雲と空の間にかかっていた。  僕は空と水溜りを交互に見渡した。  僕の思い違いでなければ、つい先程まで空にそんなものはかかっていなかったはずだ。 「よくやりました。勇者よ」  唐突に雲間から一条の光がさし込み、頭の中に神々しい声が響いてきた。 「残りはあと六色です。これから先はもっと辛く、恐ろしい旅になるでしょう。  しかし勇者よ。進みなさい。この世界に虹を取り戻すために」  僕はしばらく口をポカンと開けていたけれど、やがて当然の疑問符を口にした。 「っていうか、誰?」  空に向かって訊ねたけれど、返答はなかった。その代わり啓示に満ちた言葉が続けられた。 「行きなさい、行きなさい。私はいつもあなたを見守っています。  あなたの勇気がある限り、この世界は希望を失いはしないでしょう。さあ、お行きなさい……」  空の光はたくし上げられるように引いていき、やがて声も遠退いていった。  僕は空を見上げたまま立ち尽くした。  一色だけの虹が、何かを待ち焦がれるように微かに揺らめいている。

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