現代経済の思想(中)―議会不信の構造―

 一ヶ月も間があゐてしまひましたが、申し訳ありません。

 前回、1930年代の日本においてファシストや国家社会主義者、あるいは革新官僚と云つた人たちが「政治による経済の支配」の時代を始めたと申しました。むろんこれらの人たちが同じ思想を抱いて活動したはけではないのですが、共通してゐたのは資本主義・議会主義、端的にいへば自由主義に対する不信でありました。

 なぜこゝで議会不信が出てくるのかといふと、財閥と政党との癒着があつたからです。この癒着は、昭和時代になつていよいよその激しさを増してゐました。前回お話しゝました金解禁・再禁輸にしても、財閥と政府の戦ひはそのまゝ議会における与野党の戦ひでもありました。

 むろん与党民政党(浜口雄幸狙撃後、若槻礼次郎内閣)も、旧平価での金解禁が失敗だつたことを認め初めてはゐましたが、大規模な円売ドル買の中で、金再禁輸を実施することは結局投機筋の利益にしかならないといふことが明らかでしたので、なるべくだつたら金解禁を維持したかつた訳です。しかし、この維持はもはや恒久的な意味ではなくある特定の期日まで維持できれば、浜口内閣の勝利でした。

 つまり、少なくとも現在の円ドル先物取引の決済日まで金本位制を維持すれば、金の再禁輸後の円の暴落を目論んでいはゞ円の空売りを続けた人は、決済に宛てる円が手に入らずに、破産せざるを得なくなるのです。

 ちよつと入り組んでゐるので整理します。話を簡単にするために、数値は単純化しておきます。。

 本来の円ドル実勢が「2円=金1g=$1」であるとします。
 然し旧平価の解禁で「1円=金1g=$1」としてしまひました。

 つまり、本来1ドル買ふには2円必要であつたのが1円で済む訳です。こゝで自分はお金を持つてゐないのだけれども、先物でドルを1000万円分即ち1000万ドル買つておきます。当たり前ですが、後で決済しなければなりません。金本位制が維持されてゐれば、1000万ドルは1000万円にしかなりませんから、手数料分損をすることになります。(それ以前に資金がないのですから破産しますが…。)

 しかし、決済日以前に金が再禁輸になると円ドル相場は実勢値に戻りますから、1ドルは2円で交換できます。従つて、先物で買つておいた1000万ドルは、倍の2000万円になります。先物で決済すればよいのは、解禁時の1000万円ですから残りの1000万円は丸儲けです。エライ話です。

 政府としては、何としてもこいつらに儲けさせたくない。逆に財閥側にしてみれば、何としても決済日までに金を再禁輸したいといふことになります。この年(1931)が乗り越へられゝば、政府の勝ち、乗り越へられなければ、財閥の勝ちといふ緊迫した中、12月11日民政党内閣は突如瓦解してしまひ、次に内閣を組織した犬養毅(政友会)は、13日に金再禁輸を決定してしまひました。

 若槻礼次郎民政党内閣が崩壊した理由は、経済問題だけではなく、ロンドン軍縮条約に関する統帥権干犯問題などがありましたが、結局は政友党との泥仕合に嫌気がさした若槻が政権を放り出したといふ面もあります。何にせよ、かういつた政党と財閥との癒着が明らかになり、党利党略のためには民主主義それ自体をも破壊しかねない(統帥権干犯問題の政治化など)やうな倫理観の希薄さが、政党政治・議会への不信となつて現れてきたのでした。

 前回、「政治による経済の支配」の具体的政策についてみていきたいと申し上げましたが、結局議会不信に終始してしまひました。次回こそ具体的政策に入ります。次回は、金再禁輸を行つた政友党内閣蔵相高橋是清の経済政策を初めとして、自由放任主義からの決別を見ていきたいと思ひます。


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