Project-YUCA


第三話 由香の平穏な日々



「恭子お姉ちゃん、恭子お姉ちゃん。」

由香はテレパシーでまた呼んでみた。

「恭子お姉ちゃん、恭子お姉ちゃん。」
「こんばんわ。由香ちゃん。」
「こんばんわぁ。今日ね。お買い物に行ったらね。 誰かが見てるような感じがしたのぉ。」
「あら。誰だかわかったの?」
「それが、わかんなかったんだぁ。」
「もしかして由香ちゃんを好きな男の子じゃないかしら。」
「えぇ!?私同い年くらいの男の子って知らないよぉ。」
「でも、向こうは由香ちゃんを見掛けて好きになったのかもよ。」
「そうかなぁ。でも同い年の男の子すら見たことないもん。」
「そうなの?周りは?」
「おじさんだらけ。」
「悲惨ね。(笑)」
「恭子お姉ちゃんは?」
「私?うーん....おじさんだらけ。(笑)」
「うわぁ、同じだぁ。(爆笑)」
「でも、見てるのが、好きな人じゃないなら、 気を付けた方がいいわよ。」
「うん。気を付ける。 そうそう、明日ねぇ、お兄ちゃんと山に行くの。」
「へぇ、いいわねぇ。私は一生行けないかもしれないなぁ。」
「どうして?」
「私、今病院にいるの。だからどこにも出られないの。」
「どこか悪いの?」
「ちょっと、普通の人と違う所があるのよ。」
「大変だねぇ。じゃあ全然外に出られないんだぁ。」
「そうねぇ。朝起きて、先生の所に行って、 麻酔がかけられて、で、麻酔が覚めると部屋のベッドの上なの。」
「それじゃあ、夜は眠れないでしょ。」
「それが、眠れるのよ。 麻酔が掛かってるうちに何かやらされてるのかもしれないわね。」
「ふーん。恭子あ姉ちゃんに会いたいなぁ。どこの病院なの?」
「わからないわ。気付いた時にはここに居たから。」
「入院する前は?」
「覚えてないの。」
「じゃあ、恭子お姉ちゃんと話したのって私だけなのかなぁ。」
「そうよ。由香ちゃんだけが私のお友達よ。」
「うわぁ。嬉しいなぁ。私の友達も恭子お姉ちゃんだけだよ。」
「うわぁ、私も嬉しい。」
「恭子お姉ちゃん、いつか一緒に遊んでくれる?」
「うん、いつか一緒に遊ぼうね。」
「約束だよ。」
「約束するわ。由香ちゃん。」
「二人でお揃いのお洋服とか着られたらいいね。 恭子お姉ちゃん、今何着てる?」
「私は寝る時は裸で寝るの。楽だから。」
「へぇ。格好いいっ」
「由香ちゃんは?」
「私はパジャマ。」
「パジャマかぁ.....」
「どうしたの?恭子お姉ちゃん。」
「え?なっなんでもないの。 あ、遅くなっちゃうわね。そろそろお休みなさい。」
「お休みなさーい。」

会話を終えた由香は、すぐ長谷川豊に会話の内容を話した。

「謎だらけだなぁ。」
「覚えてないんじゃしょうがないよね。」
「記憶喪失になったのと引き換えにテレパシーに目覚めたのかな。」
「恭子お姉ちゃん、可愛そう。」
「そうだな。一応、所長に報告するか。」
長谷川豊は相馬佳男に電話で連絡をした。

「夜分すいません。」
「いや構わんが。どうした?」
「実は....」

由香の会話を話した。

「そうか。確かに不自然な部分はあるな。」
「はい。毎日麻酔をかけるような治療が必要でしょうか。」
「うーむ。その娘の名前は何といったかな!?」
「今井恭子です。」
「今井......まさか....」
「所長、何か心当たりでも?」
「あぁ、昔私の助手をしてた男が今井と言ったが。」
「その方は今どちらへ?」
「ちょっとした問題があって、辞めてもらったよ。 それきり行方はわからんのだ。」
「そうでしたか。」
「まぁ、関係あるとは限らんがね。」
「関係あるとしたら?」
「由香ちゃんには可哀相なことになるやもしれん。」
「明日の外出は控えた方が良いでしょうか。」
「でも由香が楽しみにしてるんだろ!?」
「はい。」
「では、行って来たまえ。君が守ってやるんだ。 私もできる限りのことはするよ。」
「ありがとうございます。」


翌朝、二人は朝早く車で出発した。由香は無邪気にはしゃいでいる。

「お山っだお山っだぁ♪」
「山はまだだよぉ(笑)」
「いいのっ早く着かないかなぁ。」
「あの車.....」
「どうしたの?」
「後の車、さっきから俺達を尾行してるようなんだ。」
「えぇ!?巻いちゃおうよ。」
「とりあえず試してみるか。」

長谷川豊は車を左端に停車させた。後の車も少し離れて停車する。 一度走らせて再度停車させてみる。今度は後に停車できない位置を選んだため、 後の車は少し通り過ぎてたから停車した。 そのまま道の左側にあるファーストフード店の駐車場に入り、 反対側の道に出る。先に行ってしまった車はUターンできないから、 これでしばらくは、大丈夫だろう。

「どうやら、つけられてたみたいだ。気を付けよう。」
「うん」

しかし、その後二人の乗った車を尾行してる様子はなかった。


二人は郊外の山に来た。ここなら駐車場もあるし、 由香でも登れる程度の山だと思ったからだ。 食堂で食事をし、登山道に入る。

「お山っだお山っだぁ♪」

由香は先程のことも忘れたらしく、はしゃいでいる。 久しぶりに木々に囲まれる壮快感を味わう。 有休を使ってまで来て良かったと思う。 泥の道を歩くのなんて何年ぶりだろうか。 しばらく歩いてからだった。

「お兄ちゃん、ちょっとここで待ってて。」
「どうしたんだ。疲れたか?」
「う〜うん、オシッコ」
「しょうがないなぁ。じゃあ待ってるよ。」

由香は木々の間に入って行った。

由香が用を足し終えた時だった。 突然、由香の目の前にコート姿の人物が現れた。 帽子とサングラスで顔を隠している。


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