【市民憲章の推進活動】

●はじめに
 「平成の大合併」と言われる市町村合併が各地で着々と進行し、合併特例法の実質的期限を平成18年3月に控えた現在、更に新しい市が続々と誕生する見通しです。
 これらの新しい市の中には、人口規模・予算規模・人口密度・土地利用等の点において、従来の「市のイメージ」とかなり異なるものもありますが、ほぼ全てに共通することは、厳しい財政事情を抱え新しい市政運営の方策が切実に模索されつつあるということです。
 このような状況において、従来の都市計画あるいはまちづくりの発想や手法は大きな見直しを迫られ、新しい視点や問題意識が求められています。
 特に、市民参加のまちづくりにおいては、行政と市民が共に支持し得るまちづくりのあり方が極めて重要になりますが、そこで市民憲章の果たすべき役割を明らかにすることには大きな意義があると考えられます。

●まちづくりの2つの側面と市民憲章
 各地で「まちづくり」が叫ばれ始めてから既に30年以上の年月が経過し、その間数多くの試みが重ねられてきましたが、この「まちづくり」という計画的行為には2つの側面があると考えられます。
 一つは「まちの好ましい状態を建設的に実現する」という側面であり、例えば、道路整備、区画整理、市街地再開発、景観デザイン、施設建設などがそれに当たりますが、このような計画的行為は、多額の公的予算が投じられながら、一旦目標が達成されるとその後は大きなエネルギーの注がれないことが大半です。
 今一つは「まちの望ましい状況を継続的に維持する」という側面であり、例えば、市街地の清掃・美化・緑化、文化財の保存、環境の保全、イベントの開催、近隣の防災・防犯などがそれに当たりますが、このような計画的行為は、個々の作業に多額の予算は必要ありませんが、住民の半永久的かつ奉仕的な努力を要します。
 日本の建築や都市計画の分野では、戦後数十年にわたり、研究においても実務においても、前者の側面が強調されてきましたが、バブル経済の崩壊以降、「箱物行政」に対する批判や居住環境の質に対する関心が高まるにつれ、後者の側面を意識したまちづくりが多くなってきました。
 市民憲章は、前者よりもむしろ後者を強調した内容のものが多いという意味において、新しいまちづくりの潮流に確かな根拠を与えるものであると考えられます。

●市民参加の2つの局面と市民憲章
 近年、まちづくりに様々な形で市民が参加することは概して歓迎すべきことであると考えられていますが、一般の市民がまちづくりに参加し得るとしたら、その可能性のある局面は2つに集約されると考えられます。
 一つは「本来、都市計画・造園・建築・環境・法律・行政・財政等に関わる専門的な知識や能力を必要とする」局面であり、このような局面に市民が参加する場合は、例えば、審議会・委員会の公募委員、各種のワークショップ等が考えられますが、現実的には、全市民に占める延べの参加人数の割合も低く、重要な決定事項に直接関わることが困難であることも少なくありません。
 今一つは「専門的な知識や能力を必要とせず実践活動の意志と時間が求められる」局面であり、このような局面に市民が参加する場合は、例えば、美化運動、親切運動、生活改善運動、市民イベント等が考えられますが、どれについても、参加する市民の個人としての負担や責任は小さいのが通例です。
 ここで重要なことは、まちづくりの研究者や専門家の関心は必然的にまちづくりの歴史・制度・理論・事例等に向かいがちですから、ともすれば前者の局面が過大に重視されがちですが、少なくとも一般の市民の参加を前提とする限り、そのような事柄に関する深い理解を必ずしも必要としない局面があるということです。
 市民憲章は、原則的に後者の局面を想定して定められているという意味において、数多くの一般の市民がまちづくりに参加する際の有力な道標になるものであると考えられます。

●推進活動の役割
 先に述べたように、今後展開されるべき市民参加のまちづくりにおいては、「まちの望ましい状況を継続的に維持する」というまちづくりの側面と「専門的な知識や能力を必要とせず実践活動の意志と時間が求められる」という市民参加の局面が重要ですが、その何れについても市民憲章は大きな役割を果たすものと考えられます。
 すなわち、今後誕生する新しい市も含め、多くの日本の諸都市における市民参加のまちづくりにおいては、市民憲章の内容を啓蒙し実践するという意味における「市民憲章の推進」が、具体的なまちづくり活動の柱になり得るものと期待されます。
 しかし、残念ながら、現在、日本の8割強の都市に市民憲章が制定されており、最も古いものは約50年の歴史があるにもかかわらず、その意義や役割が多くの市民に十分理解されているとは言い難い状況です。
 従って、このような状況に鑑みた場合、各都市によって多少の差はあれ、市民憲章の推進活動が現実的に果たすべき役割は、主として以下の3つであると考えられます。
 第一は「市民憲章自体の意義を啓蒙する」ことであり、特に「和語の力」・「法律の限界」等を踏まえた「日本人に合った日本人らしいまちづくり」に多くの市民が関心を持つようになって欲しいものです。
 第二は「その市の市民憲章を広報する」ことであり、行政が先頭となって、市民がその市の市民憲章の文字や音に触れる機会を徹底的に増やすことが望まれます。
 第三は「その市の市民憲章の内容を実践する」ことであり、抽象的に表現された市民憲章の個々の文言の内容を、一人一人の市民が「肯定的に」・「自主的に」・「具体的に」イメージして自らの実践活動に結び付けることが大切です。
 これらは、相互に良い影響を与え合うものなので、具体的な推進活動においては3つが常に並行して進められることが望ましいと考えられます。

●推進活動の展望
 全国の諸都市における市民憲章の推進活動は、認知の度合いにおいても支持のされ方においても様々ですが、例えば、福井県福井市(市民憲章制定・1964年6月、推進組織・不死鳥のねがい推進協議会)・岩手県水沢市(市民憲章制定・1964年11月、推進組織・市民憲章推進協議会)・福島県会津若松市(市民憲章制定・1968年5月、推進組織・市民憲章推進委員会)などの事例は、範とすべき点が多々あります。
 何れも「美化運動」・「緑化運動」・「健康運動」・「イベント」・「コンクール」等を中心とした40年前後の推進活動の歴史を持ち、決して派手で大袈裟ではありませんが、地味で堅実な推進活動の積み重ねが地域のまちづくりにしっかり根を下ろしていくことを教えてくれています。
 また、市民参加のまちづくりを取り巻く環境が大きく変化しつつある現在、今後の推進活動は従来とは異なった展開が予想され、特に以下の3点が重要であると思われます。
 第一は、近年まちづくりに関わるNPOが各地で発足し、試行錯誤の段階にあるものや位置付けが今一つ明らかでないものも少なくないように見受けられますが、市民憲章の推進活動組織は、それらをまとめる連合組織の中心的な役割を果たし得るのではないかということです。
 第二は、広域行政を前提とした市町村合併が相次いでいますが、新市においては単なる既得権や利害の調整を超えた政策の総合性が求められるため、新市の市民が早い時期に好ましい心のつながりを持ち得るという点で、新しい市民憲章を制定しその推進活動を発足させることは大きな現実的意義を持つということです。
 第三は、どの自治体も財政的な厳しさを抱えている現在、行政サービスのあり方について「行政が予算(税金)を使ってなすべきこと」と「市民が自らの手で無報酬でなすべきこと」を峻別する必要があると思われますが、市民憲章の推進活動は、今後ますます重要性が増す後者の意義に肯定的根拠を与えるものであるということです。

●おわりに
 従来、地方の行政やまちづくりにおいて、市民憲章の役割は不当に低く評価され、市民の間の認知度も低かったように思われますが、近年は市民憲章自体が様々な観点から再評価されつつありますので、それに伴い市民参加のまちづくりにおける市民憲章の推進活動の意義も広く理解されるものと期待されます。
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