私的に‘80年代を語る!
追悼・村下孝蔵   〜浅き夢みし〜

シンガー・ソングライターの村下孝蔵さんが、1999年6月20日、コンサートの リハーサル中に倒れ、24日に亡くなりました。
享年47才。中高年層に多く見られる「突然死」と言って差し支えないのでしょう。かくして あの歌声もメロディも詩も、永遠に失われることとなったわけです。

リリース曲  名
80/07/01汽笛が聞こえる街
81/04/21何処へ
82/04/21夢の跡
83/08/25初恋〜浅き夢みし
84/11/21歌 人
84/12/08花ざかり
86/07/02かざぐるま
87/10/21陽だまり
87/12/02歌人II
88/10/21恋 文
89/11/01野菊よ僕は...
90/07/21清涼愛聴盤
91/04/25新日本紀行
92/11/21名もない星
94/07/01愛されるために
95/06/21林檎と檸檬
96/06/2116才
ディスコグラフィーを左表にしてみました。
計17のアルバム。正に珠玉の作品群です。

村下孝蔵(敬称略。以下同)は、1953年2月28日、熊本県で出生。生家が映画館を 経営していたため、映画の影響でやがてギターに魅せられていきました。
その後広島にてピアノの調律師をする傍ら、自主製作アルバムのレコーディング活動。
そして1979年、CBSソニーによるオーディションで最優秀アーティストに選ばれます。
翌年1980年、アルバム「汽笛が聞こえる街」シングル「月あかり」でデビュー。・・・正に これから迎えようとする80年代に向かって、シンガーソングライター・村下孝蔵は産声を あげたわけです。

シンガーソングライター・村下孝蔵の名を世間に知らしめたのは、82年のシングル「ゆうこ」、そして 4枚目のアルバム「初恋〜浅き夢みし」とシングル「踊り子」に「初恋」です。



思春期とは、含羞の時代です。

初めて恋愛であったり、性であったりというものを具体的に意識するようになる世代。しかしながら この時期から男子は日に日に醜くなっていきます。ヒゲは生えるは、声は低くなるは。
かたや女子は、この時期から日に日に美しくなっていきます。
「含羞」。
男子は、なんだか知らないけど醜く、汚らしくなっていく自分へのコンプレックス。
女子は、「女性」になっていく自分への自意識。
動機はそれぞれですが、この時期の男女は、潔癖さから来る「含羞」にさいなまれるのです。


アルバム「初恋〜浅き夢みし」
初 恋おいでよ
夢の地図青い嵐
踊り子挽歌
冬物語私一人
モ・ザ・イ・ク丘の上から
村下孝蔵は、特に昭和40年代前半生まれの世代の者にとって、そんな「含羞」や、その大元の 「自我」の一種の体現者と言える存在です。

実はこの頃(80年代初頭)から、こと「歌」の世界、ストレートな表現は忌み嫌われるようになっていきました。 要するに、マトモに正面から「愛」とか「恋」を語るのが「ダサい」ことになっていったのです。こういう傾向は どんどん加速度がついて現在に至ってますがそれはともかく、このことは、思春期の男女には 大いに歓迎されました。っていうか、歓迎されると予測して、そういう歌が作られていった、という 順番なんだと思うのですが、とにかく、「そういう歌」は、非常に耳触りよく、思春期の面々に 「含羞」からの逃げ道を与えていました。

そんな中にあって出てきたのが、村下孝蔵「初恋」だったわけです。

五月雨は緑色 悲しくさせたよ一人の午後は
恋をして淋しくて 届かぬ思いを暖めていた
好きだよと言えずに 初恋は
ふりこ細工の心
放課後の校庭を走る君がいた
遠くで僕はいつでも君を探してた
浅い夢だから 胸を離れない

夕映えはあんず色 帰り道一人口笛吹いて
名前さえ呼べなくて とらわれた心見つめていたよ
好きだよと言えずに 初恋は
ふりこ細工の心
風に舞った花びらが 水面を乱すように
愛という時書いてみては ふるえてた あの頃
浅い夢だから 胸をはなれない

放課後の校庭を走る君がいた
遠くで僕はいつでも君を探してた
浅い夢だから 胸を離れない

・・・はっきり言って、大甘な世界です。
でも、非現実的だったか?と言えば、実は非常にリアルな描写なように思います。
もうカッコつけんのはやめよう。12〜14才くらいの時、みんな、こうじゃなかったか。

そう。思春期とは、大甘な(あまりに潔癖な)世界を理想とする時代であり、世代。
このあと、20才、30才、40才と、年齢を重ねていく度に、理想が必ず現実と異なるって ことが分かってきてしまう。
思春期とは、そのことを知ってしまうまでの、執行猶予の期間。この時期に私たちは、村下孝蔵と めぐり合ったのです。

そして、1999年。村下孝蔵は、突然亡くなられた。
「ああ、亡くなったのかぁ。」
「・・・・・。」

そう。亡くなった。そしてワタシは31才。
氏の逝去によって、改めて執行猶予期間の終わりを実感するのです。

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