Chapter-5

On the circuit

冷たい風が5Mとやや強いが予報通り好天となったFISCO。やや遅めの時間に行われたフリー走行で、一周4.47kmを1分52秒163の自己ベストを出したが4番手に留まった。最近の走行でロングランをじっくりと行えなかったが、十分に満足できた結果となった。15周をコンスタントに1分50秒台で走り続けられたことに、世話になったメカにお礼を言わなければならない。今日は2本だけ違うコンパウンドを入れたタイヤをチョイスした。程なく、今日の締めくくりとして10周のトライヤルレースが行われることになり、ロメオが6台、BMが5台、トライアンフ、ロータスが各1台、ポルシェが2台、そしてHONDA−s6の18台の陣容が組まれた。例のポルシェスピードスターの御曹司の車は、ブレーキリンケージの修復が間に合わず、応援組みに周り、例の女とピット観戦となった。

レースは列と列の間が1列分開いているスターティンググリッド。4番めの左のポジションでスタートを待つ。緊張の中、スタートランプが青に変わる。後輪のスピンを押さえながら思いっきりスロットををあけた。各車一斉に爆音を上げてスタートを切った。第一コーナーに向かって勢いよく飛び出した俺は、スタートを無難に決めて、ポールポジションを取ったブルーのポルシェの後ろに突っ込んでカーブを回った。カウンターを当てそこなってスピンアウトした後続の車が砂塵をまいているのが微かにミラーに写った。その後、いつものことながら周回を経るごとに番手が落ち始めた。

ロメオGTAやロータス・エランに追い越され、俺は6番手に落ちた。5周めのヘアピンカーブ手前の右の丘のブラインドが切れ、下りコーナーに突っ込んでいくと、俺の前にさっきまでトップを走っていたブルーのポルシェがシフトダウンしてカーブに突入しはじめていた。そして、カーブをうまくクリアーし50kmに落ちたスピードから猛然とヘアピンを抜けだそうとした瞬間、パワーを一気に上げすぎたポルシェはカウンター操作を誤りリアーから流れ出し、一瞬のうちに目の前でスピンし始めた。幸い私のロメオは上り坂に向けた路面に助けられ冷静にグリップし、後続の車とスピンのポルシェの間をすり抜けた。「危ねー」とヒヤリとさせられた。そしてシケインのない時代の第4コーナーは、9周めに入るとタイヤの摩耗とともに高速コーナーのドリフトに不安な動きを見せはじめていた。

ロメオGTAとロータス・エランのバトルは最後まで続きファイナルラップのダンロップコーナーで危うく2台が接触しそうになったが、からくもGTAが逃げ切りチェッカーを受けた。そして、完走の16台中7番手に終わった俺は、やっぱナンバープレートを持たない専用レースカーは違うなと変な納得を自分に言い聞かせ慰めていた。

ピットに戻った俺は、アイドリングを続けながらバックヤードに車を停め、ロメオ仲間の所に向かった。すると、レースを棄権したポルシェスピードスターの影から、俺を待ち構えていたように例の女が近づいてきた。
別に一夜限りのことであったし、まして他の男といる女にシカトして通り過ぎようとしたところ、ウルウルとした小さな声で女は「さっきは黙って帰ってごめんなさい。」と言った。

「ああ、」と面倒臭そうに答えると、

「お願い!一緒に帰って!」と何か思いつめたような目で懇願してきた。
「例の奴がいるだろ」と答えると
「いえ、途中までにしてもらってるの。」
「・・・」
「どうしても、あなたにお話したいことがあるの。箱根の乙女峠に向かう138号線に、”ラ・メール”っていうレストランがあるから、そこに来て。今夜8時に。絶対待ってるから」と行って、素早く立ち去っていった。

サーキットの西の静岡の方角には、今にも落ちそうな太陽が稜線に掛っていた。



Chapter-6...The otome pass