スーパーマン飛べないもんね。


●長嶋さんが倒れたとき渥美清さんのことを思い出した ●



  長嶋さんが倒れたとき、渥美清さんのことを思い出した。8年前、ガンで亡くなった国民的スター。その渥美さんが「寅さん」を語っている場面が脳裏に蘇った。

  遺作となった「寅次郎紅の花」の現場に密着したNHK「クローズアップ現代」。そこで渥美さんはこう語った。「スーパーマンが撮影の時に、見てた子供たちが『飛べ、飛べ、早く飛べ』って言ったってけども…。『飛べ、飛べ』って言われてもスーパーマン飛べないもんね。針金で吊ってんだもんね」。

  私生活をいっさい公にせず、俳優・渥美清に徹していた本名・田所康雄さんが、最後に漏らした本音。山田洋次監督が「遺言のつもりでしゃべったんじゃないかな。ああいうことは、普段はしゃべりたがらない人」というこの言葉は、ファンに向けられていた。

  寅さんを愛し過ぎて、生身の人間が演じていることを忘れてしまう。抗ガン剤を飲んで撮影に臨んでいた渥美さんの苦悩を知らずサインを強要し、断られると「愛想がないね」とバッサリ。それらの人々に「寅さんを演じるのも大変なんだ」と言いたかったのだ。

  ミスターも以前「長嶋茂雄をやっていくのも大変だ」と話していたと聞く。それなのにわれわれはこの期に及んでまだ、長嶋さんに“何か”を求めてはいないだろうか。日本代表・長船編成委員長も「(五輪代表)監督は長嶋君以外考えていない」と言い続けている。

  渥美さんは68歳で亡くなったが、長嶋さんは同じ歳で倒れたものの一命をとりとめた。そのことを不幸中の幸いとして、純粋に回復を願うだけでいい。これまでミスターが残してくれた数々の奇跡に感謝しながら。