枯渇する原油


■資源とは何か■
・資源とは何か
 人間が利用可能なエネルギ−や素材を取り出すことが容易な、高い品質(純度)を持っ
た天然の物質が資源である。
 例えば、グランドの土の中に鉄分を見付けるのは容易だが、グランドから資源としての
鉄を取り出すことはできない。そこにある鉄の純度と比率が低く、鉄を集めるのに大量の
エネルギ−が必要だからである。一方、鉄鉱石のように純度が高ければ、利用可能な状態
の鉄(資源としての鉄)を取り出すためのエネルギ−が少なくてすむ。そのような容易に
利用できるものだけが資源と呼べるのである。



・あるものが資源であるか否かとそれを利用するのに要するエネルギ−の関係
 海洋底や地下深い場所等で、様々な資源開発が進められている。しかし、それらのほと
んどは、従来よりも密度が低いとか、採掘により多くのエネルギ−を必要とする等の問題
を持っている。例えば、新しい油田は今も次々に発見されているが、それは、今まで発見
できないほど小さかったものが新たな技術の進歩で発見できるようになっただけであり、
それらの採掘には従来の大型油田よりも遥かに多くのエネルギ−を要する。海には大量の
ウランやマンガンがあるが、ウランは海水中に微量含まれているだけであり、利用可能な
程に密度を高めるには膨大なエネルギ−を必要とする。深海底にはマンガンがあるが、こ
れを陸上に引き上げるにもやはり大量のエネルギ−が必要である。
 技術が発達すれば、深い地底や海底の資源を発見することはできるし、純度の低い資源
の利用方法も開発されるが、それらの利用に必要なエネルギ−量を減らすことはなかなか
難しい。
 ある物質が、資源とみなされるか否かは、それを利用可能な状態にするために必要な投
入エネルギ−が一定水準より小さいか否かによって決まる。いくら膨大な物質がそこにあっ
ても、利用できる状態にするのに膨大なエネルギ−を要するなら、それは資源であるとは
言えないのである。従って、資源の残存量も物理的な量ではなく、利用可能な量という視
点から考えなければならない。



・エネルギ−資源におけるエネルギ−の密度
 火力>水力>風力>太陽光
 これは、同額の設備建設に要するエネルギ−や資源に対して、どれだけの電力が得られ
るかの比較であり、その中で石油や石炭等の化石資源を利用する火力は極端に安価である。
 石油や石炭の元は、太古の太陽エネルギ−によって生育した化石時代の生物の遺骸であ
るが、その形成過程に於いて不純物が除かれ密度が高められている。このため、僅かな量
から多くのエネルギ−を取り出すことができる。自動車を薪で走らせることはできるが、
その性能は極端に落ちる。それは薪を利用する行為が技術的に劣っているからではなく、
エネルギ−源として、ガソリンの方が薪より優れているからに他ならない。ガソリンと同
量の薪から得られるエネルギ−は、ガソリンに比べれば少ない。同じ植物の光合成で炭素
か固定されることで生成されているにもかかわらず、その利用時の効能に大きな差があり、
先進国で薪よりガソリンが使われるのは、原油が、地質学的な濃縮過程を経ているのに対
し、薪ではそのような工程を欠いているからである。
 一方、風力や太陽光の直接利用は、その場にある不安定な風力、太陽光のエネルギ−を、
大がかりな装置を使って、電力や運動等、利用可能な状態に変換(濃縮)しなければなら
ず、そこに大きなコストが必要になってしまうのである。




■資源の「消費」とはなにか■
・資源の「消費」
 石油を燃やせばエネルギ−を得ることができるが、燃焼の結果、空気中の酸素と化合し、
二酸化炭素が生成される。この行為は石油という資源の「消費」であり、その結果、廃棄
物である二酸化炭素が生成される。また、消費されたエネルギ−も、最後には低温の廃熱
となる。

この反応を逆転させれば、いくらでもエネルギ−を再生できる。しかし、それには消費
過程で得られるエネルギ−以上のエネルギ−を再生過程で投じねばならず、同じエネルギ
資源を用いてそのような再生を行なっても無意味である。それ故、エネルギ−資源は消費
されるだけで生産されることがなく、生成された二酸化炭素も再利用できないのである。
・資源のリサイクル
 一方、金属は、アルミや鉄で一般的なように、廃棄された製品をエネルギ−投入して集
め、エネルギ−を加えて融解し、純度を高めて再利用することが可能である。リサイクル
に伴って、不純物の処理や分解、分別なのど問題が生じるが、これらも多くのエネルギ−
を投入すれば解決可能である。従って、金属資源のリサイクルとは、再生不可能なエネル
ギ−投入と引き替えに初めて可能になるものである。紙のリサイクル、水のリサイクル等、
他の様々なリサイクルも同様である。



・リサイクルできないエネルギ−資源
 このように考えると、資源の中でも石油、石炭等の埋蔵エネルギ−資源が、それ自身を
リサイクルできないという点、他のリサイクルの過程で必然的に必要になる点で、特別な
存在であることがわかる。資源問題とは、本質的にはリサイクルできない埋蔵エネルギ−
資源の問題と、その廃棄物による環境問題、より利用困難な資源を利用したりリサイクル
したりするためのエネルギ−消費の増大や、純度の低い資源を利用する際に生じる不純物
が引き起こす環境汚染の問題、そして、資源消費そのものによる環境改変である。
 エネルギ−資源はリサイクルできないため、その消費に伴い、必然的にそのエネルギ−
資源が消費され、残存量が減少すると同時に、同量以上の廃棄物が生じる。この廃棄物が
リサイクルできないのは、それがエネルギ−資源から生じた廃棄物であるからである。



■石油■
○原油についての基礎知識
・成因
 海洋プランクトンの死骸が、海底に雪のように降り積もり(マリンスノ−)それらが分
解されるペ−スよりも早く、河川から流れこむ土砂がその上に堆積すると、海底に分解さ
れない有機物層が形成される。そこに更に地殻変動や堆積土砂の圧力が加えられることに
よって、有機物が液化したものが原油、気化したものが天然ガスである。しかし、せっか
くそのようにして生成されても、これらは周囲の岩石はもちろん水よりも軽いために次第
に流出し、通常は蓄積されない。しかし、地層構造が湾曲することで、流失を妨げる構造
(トラップ)が形成された場合には、原油や天然ガスは地層中に滞留し、採掘可能な資源
となる。
 世界の埋蔵量の67%を占める中東では、アフリカ大陸とユ−ラシア大陸が分離してい
た白亜期に、両大陸間の海底に堆積した有機物が、両者が6500万年前大陸移動に伴い激突
したことで極端に大きな圧力を受け、褶曲地層も生じ、大量に生成されたものと思われる。

・採掘方法
 原油は地下にプ−ルのように存在するのではなく、岩石や砂の間の隙間に入り込んだ状
態で存在する。これを完全に回収するのは不可能であり、そのうち平均27%、悪条件の
場合には数%が採掘できるに過ぎない。
 大きな圧力を受けて形成さる原油は、採掘当初には大きな圧力で地層内に閉じこめられ
ており、そこにパイプ(油井)を通すことで自然に噴出する。しかし、噴出と共に圧力は
低下し間もなく噴出は停止する。そこで、油田に高圧ガスや水を注入し、人為的に圧力を
高めるのである。最近では細菌や界面活性剤を注入して粘度を下げたり、蒸気を注入して
温度を上げたりする補助手段が使われることもある。北海油田は、これらの様々な手法が
最も進んでおり、回収率が50%を越える場合もある。

・原油をめぐる世界史
 1960年代に生じた石炭から石油へのエネルギ−転換を「エネルギ−革命」と呼ぶ。
石油は石炭に比べて、不純物が少なく不純物除去も容易であり、液体であるため輸送や加
工も簡単である。このため、石炭から石油に転換することで、経済は大きく成長すること
ができた。現代の工業国の生活の全ては石油の上に浮かんでいると言っても良い。
 現代の工業化社会は全面的に石油に依存しているため、石油を誰が支配するかは常に大
きな問題となっている。
1960年代:工業国が産油国を支配し、石油を安く買っていた。
1970年代:OPEC(石油輸出国機構)が主導権を握り、大幅に値上げ。
1980年代:世界各地で油田が開発され、生産は急増。価格は急落する。
1990年代:石油価格急落のため貧困にあえぐ産油国(イラク等)もでてくる。地下の
       石油の領有をめぐる争いが原因で、イラクはクウェ−トを占領。イラクに
       対して多国籍軍が徹底的な攻撃を加え降伏させるという湾岸戦争が発生。
       これ以降、資源を持つ途上国は、工業国に反抗しようという姿勢を持てな
       くなってしまった。
2000年代:アメリカ、インドネシア等では枯渇が近付き、産出量は目に見えて減って
       いる。一方、中国、インド等工業化が急速に進むアジアの国々では、原油
       の需要が拡大し、長い間安価であった原油価格は急騰を始めた。
       多くの残存埋蔵量を誇るイラクには、アメリカが侵攻し、原油を独占して
       いたフセイン政権を打倒。アメリカ主導のもとで、親米政権の樹立が目論
       まれている。

○原油枯渇の過程
・埋蔵量、可採年数、価格の変遷
 埋蔵量には様々な定義が存在するが、ここでは、埋蔵量に回収率を掛けて算出される採
掘可能な埋蔵量の最大値である究極可採埋蔵量をもとに議論を進める。この埋蔵量を年間
採掘量で割ったものが、可採年数である。
 1960年には約40年であった可採年数は、その後新たに発見される埋蔵量が年間採
掘量に満たなかっため、年々減少した。これを背景に中東の石油輸出国は団結し、従来バ
レル3ドル程度であった価格を一挙に12ドルに引き上げ、更に1980年には中東地域
での戦争勃発もあり、30ドル以上に上昇した。1980年の可採年数は28年となり、
価格上昇ともあいまって、石油危機が叫ばれた。
 価格上昇は、天然ガス、原子力、石炭など様々な石油代替地下資源の実用化を促し、世
界の原油消費量は頭打ちとなった。消費の伸びが止まった上に高価格のために中東以外の
原油の開発も進み、原油価格は急落。80年代末には、再び15ドルまで落ち込んだ。
 その頃、突如中東の原油埋蔵量は増加し、1990年には再び可採年数は40年に戻っ
た。この間新規の巨大油田の発見はなく、産油国政府発表の埋蔵量の数値だけが増えてい
る。これは原油価格の低迷解消のため、減産を協議した中東諸国が埋蔵量に比例した原油
採掘割り当てを実施したため、多くの割り当てを得るために埋蔵量を水増ししたのではな
いかと疑われている。
 その後も、増大するエネルギ−需要は原子力や天然ガスの拡大で賄われたため、近年ま
で原油消費量はさほど増大せず、その価格は更に低下。1998年には、10ドル程度に
なった。

 しかし、近年の中国をはじめとするアジア各国の経済成長、アメリカなど古くからの産
油国の産出量減少、世界各国の余剰資金の投機的流入などにより価格は急騰。2000年
9月には35ドルを越えた。従来は、このような価格上昇が生じた場合には、ただちに各
産油国が増産を開始したため、価格は低下に転じることが多かったが、今回の上昇局面で
中東産油国の増産は行なわれたが、さほど価格は低下していない。これは、近年の環境問
題への配慮のために、不純物は少ないが残存埋蔵量が少ないため増産余地のない北海やア
メリカで産出する高品質の原油に対する需要が大きくなる一方、残存埋蔵量が多く増産余
地はあるが、不純物の多い中東原油は余り気味になっている事が大きな影響を与えている
ように思われる。

・枯渇時期の予測
 現在の究極可採埋蔵量は確率90%で1.8兆、50%で2兆、20%で2.5兆バレルであ
る。仮に1.8兆バレルと考えると、ここから、既に採掘された8000億バレルを除いた1兆バ
レルが残存埋蔵量であり、これを現在の年間採掘量260億バレルで割ると、38年という
可採年数が算出される。
 探索技術の向上に伴いより小規模な油田も発見可能となり、新たな油田は毎年発見され
続けている。また、回収率は採掘技術の進歩により、年々高まっている。それが、40年
前も今も、可採年数30−40年という数値を生み出しているのである。それでは、枯渇
はありえないかというと決してそうではない。40年前、新に発見された油田は巨大なも
のばかりであったが、最近は数こそ多いが何れも小規模油田しか見つかっていない。世界
最大の産油国サウジアラビアを例にあげると、1991−95年に発見された油田一つ当
たりの埋蔵量は、1946−50年に発見されたものの300分の1以下に過ぎない。世
界で新たに発見される埋蔵量も、1960年代50億バレルであったのが、年々減少し、
最近では7億バレル程度になっている。最近の可採年数維持は、採掘技術向上による部分
が大きいが、そこにも物理的な限界が存在し、無限に回収率を高められるわけではない。
 このような事実をもとに、枯渇の時期をある程度予測することができる。2010年頃
産出ピ−クを迎え2030年には半減、2050年には枯渇するという説、2030年頃
ピ−クを迎え、2080年頃枯渇するという説など様々であるが、21世紀中の枯渇はほ
ぼ間違いないものと思われる。

・枯渇の過程で生じる分配の問題
 生産量が半減するような非常時に、世界中でどのような分配を行なうかは大きな問題に
なると思われる。現在の世界の一人当たりの平均原油消費量は、アメリカ2600kg、日本18
00kgであるのに対し、中国120kg、インド67kgであり、世界平均は550kgに過ぎない。多く
の途上国の原油消費量は少ないが、森林資源の枯渇に伴い途上国の主要な生活エネルギ−
源である薪炭の供給は先細りであること。石炭が温暖化に大きな影響を与えること。途上
国においても急激に自動車による輸送が拡大しつつあること等を考慮すると、価格の問題
を別にすれば、途上国での原油需要は今後も伸び続けると考えられる。
 世界平均が半分の275kgとなり、これをもとに平等に世界に分配するなら、アメリカは
一挙に9割、日本は8割、原油消費量を削減しなければならなくなる。
 豊かな消費生活の維持を求める先進工業国の国民が、そのような耐乏生活を容易に受け
入れる可能性は小さい。最悪の場合には、経済力と軍事力を持つ先進工業国が、従来どお
りの豊かな生活を維持するために原油を買い占め、他国は事実上消費不可能な事態に追い
込まれる可能性もある。原油が、農業、工業など、国家の基幹産業を支え、近代的な暮ら
しを営む人々の生命を支える重要な資源である以上、その争奪が間もなく大規模な戦争を
勃発させる危険性もある。