ほらふきだんしゃくてきぐこーろく

そろそろ “ゴダール映画” にも手をつけるべきか

 

2004年10月23日

 

さて、『おしゃれコメディ』の巻

(指定BGM: シルヴィ・バルタン / アイドルをさがせ )

 

 

先日BSの深夜に放映されましたフランス映画 “地下鉄のザジ”。こちらがあまりに面白く、吾が輩録画しました週だけですでに5回観直すほど惚れ込んでしまいましたワイ。これに至るまで吾が輩がそれほど愛好いたしました映画と申さば、「戦争のはらわた」と「ブレードランナー」、「Das Boot」、そして「キンスキー&ヘルツォーク監督のコンビ作品」くらいではありますままいか――では、さっそくそちらの感想をば。

 

吾が輩つとに題名だけは存じてはおりましたものの、これまで一度も拝見したことがありませなんだ。それこそ記憶が確かなれば、初めて耳にしたのはおそらく小学生のころでございますナ。ですので当時存じておりましたフランス映画のイメージから、おそらくは「禁じられた遊び」風味の名作のたぐいで、されどハート・ウォーミングな内容であろうと勝手に決めつけておりましたのですが……これがまさに観てびっくり!!

 

まずはザジとその母親の到着を待つ叔父・ガブリエルが、同じようにホームで待つ客をつかまえて「なんて臭い連中だ」と好き放題をボヤきだすところから始まり(注1)当時のパリ市内の浴室普及率が11%であるといううんちくを披露。するうちに列車が到着しまして、降りてきた40がらみの中年女性がガブリエルの後ろに隠れていた男性に飛びつくというベタな展開に。その小柄な男性はガブリエルの兄で、母親を抱えたままグルグル回転しつつホームから退場。ガブリエル自身は結構な長身で固太りなご仁。かなりの洒落者らしく、他人様の体臭に難癖つけるだけありましてフィオール社の“バルブーズ”なる香水を愛用(注2)

 

さてザジを連れて駅前に出ますれば、そこにはなぜか一台しかない友人・シャルルのタクシーに客が殺到。その混乱をいいことにザジは地下鉄の駅に向かいますも、生憎とスト決行中。仕方なしにシャルルのタクシーに乗りますれば、双塔の寺院らしき建物が。「あれなに?」と訊きますザジに「マドレーヌ寺院だよ」「廃兵院さ」「わからない」と都合三回もおなじ場所を通ってそれぞれ異なった返答のガブリエル。吾が輩気になりましてネットでパリ市街の主だった建物を検索してみますれば、そのいずれも不正解の様子。さて、正しい名称はいかに?

 

――とまぁ、逐一を挙げておりますとまことにキリがございませんので、こちらで一旦停止させていただきますが、このように出てくるシーン出てくるシーンどれもが普通のカットであることがなく、主要人物同士の会話そのものも、当然のこと一風変わっております次第。そのまわりでも一見関係のなさげなエキストラたちが、まったく独立した芝居をしていたり、“しこみネタ” として使われたりと、画面のどこかにかならず “笑いのエッセンス” が途轍もなくふんだんに盛り込まれておりますのには、吾が輩今回はシャポーを脱ぐのを忘れてしまいますほど、すっかりとりこされてしまいました次第。

 

劇中の白眉と申さば、念願の地下鉄に乗り込むべく叔父宅を飛び出したザジが、見知らぬおじさん(ひげの露天商ペドロ)と追いかけっこをするくだりでございましょうか。駅に行ってはみたものの相変わらずストは続き、悲しさのあまり泣き出してしまうザジ。演技では「エーンエーン」程度なのにSEはまるで号泣レヴェルなのは(注3)さておきまして……その泣き声に誘われて声をかけてきたのがかのペドロ。不審がるザジに変態扱いされてもひるまずに、ノミの市で“米軍放出品”(注4)のジーンズを買ってあげて機嫌を取りますが……

 

それをまんまと奪って逃げるザジを追い、サイレントチックなトリックを交えて早巻き映像にてスラップスティックが繰り広げられるのでございますが、こちらがまた古典と申します中にもナンセンスな風味で味付けされ、なにやら「ゲバゲバ90分」「モンティ・パイソン」ゲヴァルト世代(注5)のノリもそこはかとなく感じられます次第。されどこちらの映画は1960年の制作なれば、まさに時代の先駆と申しましても過言ではございませぬコメディ・センス。

 

そんな時代性をよく出していたのが、劇中にて急に思い出されます大戦中の経験。英軍の爆撃で町が燃えた様子や、占領下の統制や税金でとかく金をむしり取られたとか――よくよく考えますれば戦後まだ15年でございますゆえ、ガブリエル(劇中では32歳の設定)などは大戦当時青春まっただ中。忘れるはずなどございませぬナ。

 

ちなみに1960年ですと日本では昭和35年。まだかの東京オリムピックさえ先の話でございますワイ。都内にもまだ無舗装の道路が当たり前のように見受けられ、それこそ戦後エンタテインメント界の超ドレッドノート級コミック・バンド、クレイジー・キャッツ(注6)が空前の大ブレイクを迎えるあたりと思われます……そちらを考えますにつけ、なおさらヨーロッパの文化成熟度の早さを思い知らされもしました次第。

 

その他にも、エッフェル塔の展望台にて急にガブリエルが恋愛や人生について哲学を語り始めたり、彼の多岐川裕美似の奥様・アルベルティーヌは美人なのですが、つねに無表情なうえにカメラからやや外れた一点を見つめるように話しますのでチト怖いですし、先ほどのペドロはひげがなくなり、巡査トルスカイヨンとして全身紫ずくめの寡婦・ムアックの車でデタラメな交通整理をしながらパリの路上を逆走暴走しますわ(注7)、友人シャルルは決心してウェイトレスのマドと婚約しますわで、めくるめくドラマ展開にてまさに文字通り、“時の経つのを忘れる” 始末でございましたワイ。

 

――さすがにこのままラストまでバラしてしまいますほど、吾が輩も無粋ではございませんのでここいらで〆とさせていただきますワイ。マァ簡単に申しますればラストはナンセンスをはるかに通り越しましたハチャメチャ。ここまで来ますればもはやおしゃれもヘッタクレもございませぬ。ドタバタもこれに極まれり、という感じでございますかナ……なにやら今回は筋を追うばかりで、ちっとも愚考録らしくございませなんだが、それもこれもひとえにこちらの映画に魅了され尽くしてしまいましたゆえの愚考。ひらにご容赦をお願いいたしたく存じ上げます次第。

 

 

 

さて、おしゃまな一言を残してパリを去りましたザジ。そのザジの口癖がこれなん「ケツ食らえ!」。なんとも女の子らしくないお下品な口癖でございますが、さすがに吾が輩フランス語はチンプンカンプンでございますゆえ、こちらが直訳なのか意訳なのかも皆目判りませぬ体たらく……されどザジのように可愛らしい少女のおケツでございますれば、吾が輩いくつでも食らってしんぜましょうぞ。もちろん法律が許さば、のお話でございますがナ。

 

こちらはまったくの閑話となってしまいますが、吾が輩が24、5歳のころの事でございますワイ。休みの日に渋谷に用事がございまして新玉川線(当時)に乗っておりましたら、いきなり吾が輩のそばにいた女の子のお尻が脚にボイン!と当たってきましたのでございます。とくに車両が揺れたわけでもないので怪しみつつその子に目をやりますと、吾が輩と目があった途端にニッと笑顔を輝かせてきたのでございます――そして、おどろく吾が輩にすかさず指を三本突き立てて見せたのには、

『ああ、この子が悪いのではない。すさんだ都会が悪いのだ……』

と痛む心に瞑目を禁じ得ませんでしたワイ。そんな吾が輩にできましたのは、その子に無言で大三枚をにぎらせることぐらいしかございませなんだ――まぁ、ウォンではございましたが。

 

……後半からはあからさまなウソッパチでございますが、ボインでニッ!は本当の話でございますワイ。何のアッピールだったのかは判りませぬが、決闘を申し込まれたわけではございますまいから、良しとしておきますかナ。

 

 

さるにても、「博士の異常な愛情」にて三役をこなされました名喜劇俳優ピーター・セラーズ氏のごとく、こちらの映画にて三役を演じられましたヴィットリオ・カプリオーリ氏はいかなる出自の俳優さんなのでございましょうや……ちょいとググッてみましたところ、引っかかりますのは“青い経験(エロチカ・レッスン)といま少しばかり。もしかしますれば舞台畑のお方で、映画はあまり出演されないのでございましょうか、ハテ……。

 

――とにもかくにも、ご一見いただいてこちらの映画のおもしろさに触れられるのがなによりかと。イタリアのロベルト・ベニーニ氏の「ライフ・イズ・ビューティフル」が、細かいコントの積み重ねでもって一編のストーリーとなされているように、こちらも全編を通じましてユニークなエピソードの連続で、思わず頬がゆるんでしまいますこと請け合いでございますゾ!! コメディのなによりいい処は、少々気がふさいでおりましてもこれを観ることで晴れやかな気分に立ち戻れますコト。クヨクヨしているくらいでしたら、この “地下鉄のザジ” をご覧いただきますれば、お客様の心を覆います雨雲のあいだから、明るい日光がきっと差し込むことでございましょう。

 

かの「全ブ連」(注8)代表の伊集院光氏とて、お笑い畑でありかつご自身も映画好きであられますので、おそらくは大筋で太鼓判を押していただけるのではございますまいか……「とりあえず(ら)で観るなら可」と。

 

 

 

 

 

 

注1:ここで並んでいる客たちは、最後まで衣装を変えたりして劇中に細々と顔を出してくる。

注2:そんな会社はないっぽい。

注3:なべてSEが大袈裟なのもこの映画の特徴。車もスムーズ停車なのにいつも急ブレーキ音ですし。

注4:「米軍には子供用サイズもあるのか」との問いに、「戦争にはなんでも必要ですから」とのこと。(このとき俳優さんが二役を演じている)

注5:男爵があの年代を指して勝手に使用している呼称。全共闘とかとは無関係。もとは筒井康隆や赤塚不二夫両氏らの作風から受けた印象を指しておりました。

注6:クレイジーの楽曲はフルオーケストラのバンド演奏なのでかなり音が贅沢。いまだと逆に作りにくいたぐいの楽曲ではございますまいか。

注7:最後には車のボディもなくなり、座席とタイヤと駆動部分のみで混雑するパリ市街を走ります。もちろんシートベルトも方向指示器もライトもナシ。
それで夜も走行させるのでございますから、よくよく撮影許可が下りたものですワイ。

注8:「全国ブサイク連合」の略。

 

 

 

 

 

おいおい、そっちじゃないぜ!

 

 

2004.10.23 (C)Mephistopheles von Münchhausen

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