ほらふきだんしゃくてきぐこーろく

“初心忘れるべからず” そのまんまのマンガ。

 

2005年02月18日

 

さて、『栄光の光と影』の巻

(指定BGM: 筋肉少女帯 / パブロフの犬 )

 

 

今年に入りましてから夕飯時に足を運ぶようになりました、とある定食屋さん。こちらは近くに学校がいくつかございますことからか、メニューの数もさることながら、置いております漫画の品揃えも豊富なのがとても魅力。例を挙げますれば 『賭博黙示録カイジ』『花の慶次』 が仲良く並んでおりますお店、と申しますれば雰囲気を掴んでいただけますかと。

 

こちらに新装版 『リングにかけろ』 がございましたので、吾が輩いい機会とばかりに読み進んでみたのでございますが……じつは吾が輩、車田正美先生のマンガはどうにも肌合いが悪うございまして、こちら 『リンかけ』 全盛時は吾が輩 『朝太郎伝』 に熱中し、かの 『聖闘士星矢』 の頃にはその大味な内容に加えましてオタクたちの熱狂っぷりにほとほと嫌気がさし、初回数話を読むに留まったまま、ついに接する機会を失っておりましたのでございますワイ。

 

――して、まず読み始めましてひしひしと迫ってきます、臭うような花登筐イズム(注1)に、おいしい夕飯タイムもどこへやら……。今では昼ドラの回想シーンにも採用されないような極貧生活&継父(ままちち)からのドメスティック・ヴァイオレンスの日々。それでも連載当時でございますれば、まだ高度経済成長の恩恵に浴せませぬ人々は少なくありませんで、吾が輩が小〜中学の頃の同級生でも、家に電話が無かったり、名簿の電話欄に (○○方呼び出し) などとなっておりますご家庭も、稀とは申せまだいらっしゃいましたくらいでございますので。あとあとでねえちゃんの高嶺菊が中学校を卒業してから、お世話になっております大村医院の看護婦になりますように、経済的な理由で進学できない(しない)若者そのものも、かなりの割合でいらっしゃったものでございますゾ。

 

ともあれ、明日の幸せをも踏みにじりかねない継父の暴力から逃れ、高嶺姉弟がやって来ましたのがテリブル(恐怖の)東京。吾が輩十年ほど住んでおりまして、一度も見たことも聞いたこともございませんようなステロタイプ極まりない偽りと悪徳と堕落が瘴気のようによどむ街、テリブル東京――田舎の純な少年少女たちをイタズラに脅かすだけのウソ情報を、東京生まれの作者ご本人がまことしやかに誌面に描くのはどうかと思いますが、こちらにて足りない情報をば吾が輩が補足させていただきますれば、東京にていちばん身近で厄介な民事暴力は新聞の販売拡張員でございますことは、こちらに明記しておきましたほうがよろしいかと(注2)

 

――とまぁ、この日本のどこかにございますテリブル東京にて、それなりの苦労とライヴァル・剣崎順との出会いを重ねまして、高嶺姉弟は前述の大村医院に落ち着くこととあい成るのでございます。車田先生は下町のご出身だそうでございますので、遠からず大村医院のあります月島あたりは先生のホーム・グラウンドでしたのではございませぬかと愚考いたします次第。

 

 

そんなこんなで、ここいら辺からようやく竜児がボクシングに打ち込んでいく舞台が整うわけでございますが、正直申しましてここに至りますまでにはねえちゃんの “スケ番あらし”まる出しのヴァイタリティとギャグ・タッチがございませなんだら、おそらくは辛くて読めませんでしたワイ。後の香取石松がその担当を引き継ぐ形となるのでございますが、ギャグ・タッチになった際の目と眉の描き方がどことなく土田よしこ先生っぽく見えますのは、何か関連があるのでございましょうか、ハテ……。

 

以降、竜児が中学に上がってからとチャンピオン・カーニバル編に関しましては、『きちんと読ませる正統派ボクシング・マンガ』 に仕上がっておりましたのは吾が輩も意外でございましたワイ。竜児のライヴァルの登場ばかりではなく、ジム仲間の遅咲きプロボクサー・ロクさんの苦闘や純情などは、ベタでクサいのは見え見えでございますが、やはりホロリとしてしまいますのは否めませんでしたナァ。

 

こちらチャンピオン・カーニバルにて、支那虎一城や河合武士、そして前述の香取石松など、後に日本Jrのメンバーとしてともに闘うこととなる面々が勢揃いするのでございますが、この次に展開します日米戦を鑑みますにつれまして、まさにこちらが大いなる分岐点となっておりましたものと愚考いたしますと、吾が輩は複雑な思いに駆られてやまないのでございますワイ。

 

それは単に以降の車田マンガにおけます作品スタイルのみならず、少年ジャンプ誌そのものの “ヒット作品の方程式” 確立に著しく賛助しているからに他ならないからでございます。そちらはまた高嶺姉弟におけます関係の変化に顕著でございまして、ここまでの二人の立場を見ますと、ボクサーとしての柔軟な才能と可能性と兼ね備えた弟と、天性のトレーナーの才覚を宿しました姉との二人三脚、ないしは “姉弟鷹”(注3) でございましたものが、日米戦を経まして後は 『ひとりのボクサー』 として姉から巣立ってしまった点を挙げますれば、より得心がいきますかと。

 

もしこちら 『リングにかけろ』 が、そのまま姉弟鷹(注4)で展開していきますれば、各地の代表としてあらわれました地方代表キャラとの切磋琢磨は当然のこと、ベタながらもその地方独特の、いわゆる “お国自慢を” からめました新ライヴァルの登場させましたり、ロクさんのプロ挫折ならびに人生の再出発など、『ボクシング・ドラマ』 をさらに深めることがいくらでも出来ましたことは火を見ますよりも明らか……要しまするに、現在 『はじめの一歩』 にて切り拓かれておりますボクサー群像マンガの地平を、こちら 『リンかけ』 は先んずることが出来たはずなのでございますワイ。

 

ただ、クオリティ云々は 『はじめの〜』 に達せますかどうかさすがに疑問でございますが、チャンピオン・カーニバルにてボクシング理論やうんちくを元にそれなりの演出ができておりますからには、『あしたのジョー』 以降は 『がんばれ元気』 以外の作品名を思い出しますことのむずかしいボクシング・マンガ界(注5)にございまして、誰恥じることなく胸の張れます作品として名を残せたと妄想してしまいますのは、吾が輩だけでございましょうか。

 

『はじ〜』 はまだ現在進行形の作品でございますゆえ、とりあえずは 『読みませい!』 とだけ触れるに留めますが、『あしたの〜』 はたしかにボクシング・マンガのみならず、日本のマンガ文化におけます大きな金字塔のひとつでありますことは吾が輩も疑いを抱きませぬ次第。ただ惜しむらくは、あまりに宿敵・力石徹との友情と死闘が完成されすぎてしまったために、後半におけます矢吹丈のボクサーとしての成長劇がいまひとつ精彩を欠いておりますと申しますか、どことは無しに矢吹を持て余していらっしゃった印象を免れませんナァ――その極めつけが、あの真っ白に燃え尽きました衝撃のラスト・シーンではございますまいか。

 

かの結末は、矢吹にこれ以上闘わせ続けますことの意義を見失われた制作者サイドの潔さなのでございましょうか。それとも、あまりに巨大になりすぎました矢吹の存在が手に負えなくなりましたがゆえの “ピリオド” だったのでございましょうか……だって主人公が 『死んで』 しまいましたら、もう読者はグウの音も出せませぬものナァ。

 

 

――ともあれ、話を 『リンかけ』 に戻しましたいのでございますが、この回どうやら長引きそうな気配でございますゆえ、続きは次週にて。それでは乞うご期待!!

 

 

 

 

 

 

注1:1928年〜1983年 滋賀県生まれ 脚本家。「細うで繁盛記」「どてらい男(やつ)「あかんたれ」 など、ド根性人情ドラマで有名。

注2:特に○売は最悪

注3:こちらを変換させましたら、一発目で「今日抱いたか」になりましたことは、吾が輩口が裂けても申し上げられませぬワイ。

注4:なんと二回目までも……

注5:何がございますでしょう……「タフネス大地」?(←読んだことナシ)

 

 

 

 

 

 

おいおい、そっちじゃないぜ!

 

 

2005.02.18 (C)Mephistopheles von Münchhausen

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