ほらふきだんしゃくてきぐこーろく

日本のマンガ文化を多様多彩に導いた原動力?

 

2005年08月05

 

さて、 『貸本漫画の世界』 の巻

(指定BGM: 坂本 九 / 上を向いて歩こう )

 

 

とは申しましても、吾が輩はさすがにリアル・タイムな体験はいたしておりませぬコトは申し上げますまでもございませぬが、水木しげる御大つげ義春先生、ならびに “赤目プロ代表” こと白土三平氏らを中心とします、いわゆる“精神的”ガロ世代の諸作品に親んでおりますことは確か。 その辺りにおけます各氏の回顧や作品から垣間見えます当時の境遇などを鑑みまして、今回は 『貸本漫画界』 につきまして愚考を重ねて参ります所存にございますワイ。

 

そも、貸本漫画とはこれなん……要しまするに現在のレンタルヴィデオが漫画に変わっただけの、子供相手の商売にございますナ。当時は漫画専門の雑誌は極めて少なく、大手の出版社が続々と乗り出して来ますのは意外にもかなり後のお話。では、貸本漫画そのものの萌芽はいずこを苗床として始まりましたのか……貸本それ自体は、高価な学術書などをフトコロ寂しい学生らに読む機会を与えんとして始もられましたものと見まして、まず間違いではございませぬ気もいたしますが、貸本漫画はどうやら紙芝居の延長上にございますご様子。

 

水木御大も紙芝居の元締めから貸本を紹介されておりますし、実際御大のまわりも同様ないきさつを経られたお方ばかり。ちなみに白土先生も紙芝居畑出身にございますことは、こちら愚考録は 『ザンコクマンガ』 にて触れておりますナ。そんな業界でございますからか、まずはかの 『黄金バット』 のような回転率の高い“ヒット作”を、生み出すではなしに当てるというのが至上命題。要しまするに 『下手な鉄砲数撃ちゃ当たる』 方式でございますゆえ、企画のアウトラインは注文しましても、中身は筆者の裁量に任せっきりということも多々ございましたご様子。『あんた戦記もので50ページやってくれ』 とまぁ、このような感じ。

 

もちろん現在の雑誌編集部のようなセクションもございませんから、出来上がってきました漫画の内容や質に関しましては、注文の概要さえ掴んでおりますればよほど劣悪でない限りは引き取って製本されましたようでございますナ。先述のゴールデン・トリオの作品でございましても、やや絵柄や構図に“甘さ”が見えたりもいたしますが、劇画はおろかマンガ産業そのものがまだ幼年期でございました事を鑑みますれば、各氏の筆致もそんな時代を映します恰好の鏡にございますワイ。

 

そんな貸本漫画の負のサンプルとしましてまこと好都合な一冊がございまして、こちらは往年の日活映画がキザをこじらせて腸捻転を起こしましたような作品。そもそもの出会いは、吾が輩が小学校中学年くらいに養母方の養祖父が(注1)お土産に持ってきてくださいましたお品にございますが、幼ゴコロにもいかにもな斜に構えましたこちらのタイトルには、フロリダのマッチョなジミーよろしきジェスチュア付きの失笑を禁じ得ませんでしたワイ。 それでも布綴じ箱入りの 『のらくろ仕様』 という思いのほか豪華な装丁でございましたため、『内容は案外カッコいいかも』 と期待しましていざページをめくりましたそのタイトルとはこれなん……。

 

 

男爵うる憶え劇場 『狼の子 豚の子』

夜の街の暗がりで、一人またひとりと始末されていく男たち。次はまさか俺か……彼らにゆかりのあるその男は心穏やかではいられない。彼を慰めるのは唯一の肉親である妹。妹には心を寄せ合う青年がいた。天涯孤独の身だが真面目な彼は、しかし彼女の兄のことを思うだに心は千々に乱れる。そして、意を決した青年は彼女に告白する。『君の兄さんは、僕の姉さんの命を奪った憎い仇のひとりなんだ』 と。 そう。先の二人と兄はともに青年の姉とは親しい間柄で、かつ三人とも彼女を愛してしまったので(注2)

 

他の二人を出し抜くこともできず、さりとて譲ることもままならない三人。そして話し合いの結果、誰が選ばれても文句を言わないと取り決め、彼女に選択を委ねます……断崖絶壁の上で。そんな理不尽な状況下、三人に詰め寄られて 『できない……私には一人を選ぶなんてできない(注3)』 と後じさる姉。するうちに断崖から足を滑らせて落下するというお約束。崖下を見下ろして青くなる三人を見て、『いい大人が三人揃ってばかじゃないの?』 と、時の九歳児は渋い顔。

 

『あれは事故だったんだ……』 苦悩しつつ、妹に過去を告白する兄。でも事件臭さは十年も生きてきていない子供の眼にもふんぷん。そんな兄妹に対し、最後の対決をする旨を伝える青年。とある湖にて、水上スキーで何周(注4)堪えられるかが勝負。両手は引き綱に縛り付けるので、バランスを崩してしまうと体勢を立て直せない=、という文字通りのデス・レース。愛する彼女にして妹が見守るなか、ラスト何周であえなく転倒する兄と、無様に水中を引きずられる男を見て高笑いする青年。水紋の残る湖面をバックにの文字。

 

 

――このような粗筋であったかと記憶しておりますが、あるいは御大・平田弘史氏が 『座頭市』 を劇画にされましたように、斯様な内容の映画がもしかしたらあったのかもしれませぬ――されど、『狼はともかく、豚は誰?』 と、小学校三年生にも対してもあまりにステロタイプかつご都合主義的な展開は吾が輩をしまして、『こんなのだから大手出版社の本じゃないんだ(注5)』 とマッハで愛想を尽かさせました次第。

 

画風としましては、“後期赤目プロ” をヤサグレさせましたうえに栄養失調にさせました感じ。その荒さだけでも読み手の気分をささくれさせますのに十二分なのに加えまして、オノマトペ類がすべて活字のゴシック体なのが気持ち悪いことこの上ナシ。『ザザーッ、ザザーッ』と、フキダシ以外の文字に句読点がついておりますのを拝見しましたのはこちらが初めて。

 

結局のトコロ、こちらの本はしばらくもしませんうちにゴミに出しましたか焼きましたか、具体的な処分を致しました次第。むかし従兄弟が持っていた物だろう……というのが養祖父の言でございましたと記憶しておりますが、その真相は本も養祖父もこの世にございませぬ今に至りましては、確かめようもございませぬワイ。

 

 

――こちら “貸本漫画” に関しましては、いま少しサンプルがございますので、次回はそちらを取り上げさせて頂きます次第。それでは乞うご期待!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

注1:お祖父様ににはよく可愛がっていただきましたが、稀にこうした不思議なお土産を頂戴しました次第。

注2:(C)嵐山光三郎。

注3:よく考えますれば多情なセリフ??

注4:回数は失念。

注5:たしか “日” がついておりましたような気がいたしますので、“日の丸文庫” あたりでございましょうか。

 

 

 

 

 

おいおい、そっちじゃないぜ!

 

 

2005.08.05 (C) Mephistopheles von Münchhausen

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