ほらふきだんしゃくてきぐこーろく

この業界に携わりました人々は、たいてい苦労なされておりますご様子。

 

2005年08月12

 

さて、 『続・貸本漫画の世界』 の巻

(指定BGM: さくらと一郎 / 昭和枯れすすき )

 

 

もともと “劇画” という言葉そのものも、貸本漫画界で 『影』 なる専門誌を発表されておられました辰巳ヨシヒロ氏とその一派が提唱されました造語。絵としての表現手法ばかりではなくストーリーそのものも、従来のマンガ々々したレヴェルからの脱却を旨としておられました劇画が、瞬く間に評判を得ましたことは想像に難くはございませぬナ。もちろん現在もぶりばり(注1)現役の大御所・さいとうたかを氏もこちらに参画しておられましたことは、いまさら吾が輩が申し上げますまでもございますまい。

 

前回触れましたように、貸本漫画は 『質より量』 的な運営気質が多分にございましたため、良くも悪くも種種雑多な “まんがジャンル” をば育みます結果と相成りましたのでございますワイ。斯様な土壌ゆえに数多くの漫画家さんがこの道で食べつなぐことが叶ったのも確かでございますが、彼らは決して潤沢な報酬を得ておりましたことはなく、日々の生活はまさに飢餓と背中合わせでございましたご様子。

 

水木先生が著作 『コミック昭和史』 をはじめ、つげ先生もいくつかの自叙伝的な短編に当時の様子を描かれておりますが、こちらが本当にマァ大変。要しまするに労力に比しまして得られます報酬がとてもで見合いませず、マトモな睡眠時間すらとれませんままに働きに働き詰めますその様は、水木先生いわく 『モグラのような生活』(注2)でございましたとか。

 

そちらでもまだつげ先生なれば、付き合っておられます女性にキャバレーなどで働いていただき、ヒモまがい……もとい扶助のございます分まだマシでございましたかと。そんな境遇を反映しましてか、つげ先生が貸本時代に書かれておられました作品はたいてい生活苦に彩られておりまして、まんが『貧窮問答歌』 といった具合。こちらは新潮社さんから文庫にて数冊まとめられておりますゆえ、全集などにお目を通されますより簡便がございますゾ。

 

また、当時のつげ先生の筆致は作品ごとに変化します傾向がございまして、“さいとうたかを風”“白土三平風”つげ義春が垣間見れるのでございますワイ。こちらが個人的なリスペクトの発露なのか、あるいは 『ズク』 や 『ガンガル』 のようなドス黒い魂胆がございましたのかは定かでございませんが、もちろん回転率の良い本を作りませんことには次の仕事につなげませんという切実な背景がございましたことが一番の理由なのでございましょう――そのあたりを、とある出版社にて白土氏とはち合わせ、前作で画風を真似たことを言及されはしないだろうか……という夢をご覧になられましてビクビクされました旨を 『夢日記』 に記されておりましたナァ。

 

して、お三人の中ではもっともヒット作と話題性に縁のございました白土先生でございますれば、いささか事情が変わりますものか……という事は一切ございませんで、やはり人気作家となられましても出版社の払いはすこぶる付きに悪く、台所事情にたいしたは差はございませんでしたご様子。

 

こうしてみますと、貸本漫画という業界自体が不良産業でございましたのでしょうか。それでもいくつかの出版社は細々と経営が続けられておりましたようで、“マンガ好き”の間でひと頃話題となりましたかの 『パンダラブー』 が、貸本界の老舗(!?)ひばり書房より世に出されましたのがじつに昭和52年。ひばり書房と申しますれば “オカルト&ミステリー物” で知られておりますが、斯様なギャグ物も扱われておられたのでございますナァ。

 

作者の松本正彦氏は、残念にも先頃他界されてしまいましたが、それだけのご高齢であらせられましたのもそのはず。氏はかの手塚治虫先生に直にお会いしてマンガの薫陶(!?)をば受けましてギョーカイ入りし、プロになられましてからは劇画作家の草分けとしてさいとう氏と肩を並べられましたほどのキャリアの持ち主。

 

そんな松本先生が描きます独創的なキャラ、『パンダラブー』 がまき起こしますひと騒動……を、吾が輩もあんまりヒマでしたので、並々ならぬ興味をば抱きまして、わざわざAmazon.comを通じましてまで購入したのでございますが……ネット上での書評では、『脱力系』 などと表現されておりますが、吾が輩忌憚なく感想をば申し上げますれば、『子供相手にしたってあんまりヒド』 という始末。そのような訳ですので内容には一切触れます気はございませぬが、何しろ書かれれましたご本人が憶えていらっしゃいませんような作品でございますゆえ、それでいて読み手の心に残せますものなんぞ、ございますはず道理そのものがございませぬお話。

 

――ともあれ、収集僻のございますお方にのみオススメ、とだけ申し上げておきましょう。もしご興味がおありのお客様がいらっしゃいましたら、『たばこ屋の娘』 のほうがずっと味がございましてオススメできますかナ。

 

 

ちなみに聞いたお話では、かの 『沈黙の艦隊』 で知られておりますかわぐちかいじ氏も貸本時代からのキャリアをお持ちでございますとか。さらには 『賭博黙視録カイジ』 シリーズでおなじみの福本伸行氏も貸本出身で、先のかわぐち氏とは盟友の間柄でございますとか……と申しますのは真っ赤なウソにございまして、福本氏のデビューは1984年の少年チャンピオン誌上にて、タイトルは 『よろしく純情大将』 でございましたそうでございますから、モウ想像いたしますだに 『ざわ……ざわ……』 せずにはおられませぬ次第。

 

まさに大笑いオドロキのデビュー作にございますが、その内容もさることながら、大将の純情がどのようなオトナのどす黒いエゴに踏みつけにされ、かついかなる機知をもちまして勝機をば掴みますのか、おおいに拝読したいものでございますナ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

注1:(C)吉田聡 『ちょっとヨロシク』 より。

注2:モグラは生命を維持するために体重と同じだけの食物を得ねばならず、ほとんど一日中働き詰めという生態から。

 

 

 

 

 

おいおい、そっちじゃないぜ!

 

 

2005.08.12 (C) Mephistopheles von Münchhausen

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