<Benzinger FlowerPower>

ムーブメント
PUW Cal.660 6振動 手巻き
サイズ
33mm
材質
SS
ダイヤル
シルバー+エングレーヴィング
バンド
純正黒アリゲーター
その他
ブレゲ青針センターセコンド
諸般の理由により、当ページを編集いたしました。

「Benzinger FlowerPower」〜独逸オーダー第二弾〜

・Introduction
 独逸オーダー時計第二弾ということで、孤高の彫屋(?)であるJochen Benzingerさんに女性用の時計をオーダーした。H1に続いて家族の記念時計である。
 さてJochen氏は日本ではあまり知られていないと思うが、メールをやり取りしてみるとレスポンスは早いしかなりお茶目なキャラで、ぜひ会ってみたいと思わせる好人物である。本職は「エンジンターンドエングレービング屋」というのがふさわしいか。同氏の作る時計は個性的で、そのほとんど全てがオーダーメイドである。また良く知られている事実としては、マーティンブラウンやCVdKの時計などにエングレーブしているのは彼である。ちなみにドンブリの機械の文字彫りおよびコックの彫りも彼だそうで、実はすでに彼の仕事は何度も目にしていた訳である。
 彼のスタイルは以下のようなものだ。まずベースとなるムーブメントを入手。ETAはもちろんPUWやオメガなども豊富にあるらしい。機械は持ち込みも可能で、0型懐中なんかのサンプルもある。そして彼がどのようにエングレーブするかをデザインし、機械をバラしてから加工、組み立て。ここは相当融通が利く。文字盤も材料で買ってきてデザイン後、彼がエングレービング。タコ印刷は外注であろう。ハンドもおそらく外注であるが、これが驚愕に値するほど出来が良い。ケースと竜頭、これも外注。ケースはフォルツハイム 製で非常にきっちりと出来ている。最後に風防も外注であろうが、相当良いものを使っている。
 メールでやり取りしながら仕様を決め、彼がアッセンブルしてくれるわけだ。

・Outside
 このFlowerPowerとJochen氏が名づけた時計は、実は彼が愛妻にプレゼントしたモデルでもある(彼のは金無垢ケースとのことであるが)。まさにその名のとおり表も裏も花がモチーフとなっている。表は、極めて正統なデザインをお願いした。センターセコンドの三針で、ローマンインデックスにブレゲ青針である。ダイヤル中央は、結構な面積でハンドエングレーブされた花が浮き上がる。良く見るとムラっけもあるが、何百万円もする時計では無いし、まさに人が彫った一品モノという感じで私は非常に満足している。しかし、これがダメな人はダメだろう。そういう意味では持つ人を選ぶ時計かもしれない。彫りそのものは、手馴れておりソツが無い。
 ハンドは先にも書いたが強烈な出来であり、ミニッツ・アワーとも先端はあくまで細くとがっており、ブレゲムーンの打ち抜きも完璧に繊細である。板一枚を打ち抜いた感じは全く無く、極めて立体的で、しかも例によって外端がダイヤル側に曲げてある。ミニッツハンドの長さも完璧で、ぴったりインデックスに届いている。センターセコンドもとても良い出来で、また長さもわずかにミニッツより長く、なんと言うかこの三本のハンドは色、形、長さとも完璧で三拍子揃っている。
FRICKER(http://www.w-fricker.de)製のケースはSSだ。同社はPforzheimにあるケースメーカーで、Jacques EtoileやSinnなど周辺の多くのメゾンへケースを供給している。ひとつビックリしたのはSchauerにも出していたことだ。クライネ系だけであろうか?
 さてこの時計のケースはギザベゼル(いわゆるフルーテッド)で、スリーピースである。ケース本体はヘアライン仕上げで、ラグもクロノスイスのような形状でビス留めだ。非常にドイツ的である。シースルーのスクリューバックで、防水性も担保されているしまた外周に彫った文字がこれはもうウニュウニュといかにも手彫りで、なんか暖かい。
 竜頭はタマネギを選択したが、クラシックなケースの形状とよくマッチしていると自分では思っている。巻きやすさは若干犠牲になった気はするが。
 風防は、これがまた相当に出来が良く、Hentschelほど盛り上がっていないが絶妙にアールを描くドーム風防。光学的な素性も良く、しつこいが斜で見ても歪み無しで何の文句も無い。
 総じて、この外装に文句をつける人はそうそういないだろう。

・Inside
 機械は、生粋のドイツ製ムーブメントであるPUW660である。自動巻きのPUW1560から自動巻き機構を取り去った手巻きという位置づけであろう。11.5リーニュの17石でパワーリザーヴは約40時間。PUW460や560はそっけないブリッジ分割である が、これはなかなか流麗でちょっと変わった意匠である。そしてこれは私にとって始めてのフォンテンメロン輪列の手巻きである。この輪列はヲタ受けは悪いが、私はなかなか面白いと思った。ETAの機械は自動巻きだから全く見えない4番が見えるし、そのすぐ脇では6振動で脱進するガンギとアンクルも良く見えるから だ。とにかくクルクル回る4番が真ん中というのは、スモセコ輪列の機械ばかり見慣れてきたなかにあっては非常に面白く感じた。この機械は自動巻きベースということで、機械ヲタからみれば鼻にもかけないようなものかもしれない。本来ローターの外端が回転するべき部分が段差になっているのがよくわかる。私はこの低くなっている部分に妻のイニシヤルを彫ってもらった。サンプルで送ったフォント、指定した位置まで完璧にリクエスト通りである。これによってなにか段差部分に理由を持たせようとしたわけだが、完全に自己満足である。
 肝心の彫金はどうであろうか?私自身、エングレーブに関して、私はほとんど知識を持ち得ないので「あ〜綺麗だな」と感想をもらす程度が関の山である。赤い穴石を花芯に見立てて花を展開したデザインは秀逸であると思うし、さらに機能には不必要なルビーを埋め込んでまで花いっぱいにしたというコンセプトは跳んでいて、吹っ切れている。もはやPUWの素性がどうとか、そんなことは関係ない方向で凄いのだ。色に関しては、この金色の部分はどうやっているのか全く分からず、Jochen氏に聞いてみようと思っている。
 竜頭の巻き心地は良く、どちらかというと軽めである。巻きながら機械を見ると、当然ながら角穴車が丸穴車とともに回転するが、角穴車のエンジンターンドが効いており、なん か良い感じである。この角穴・丸穴車の一部が見えるのは、段差のあるムーブメント形状と一風変わったブリッジ分割形状のお陰である。
 総じて機械は、今まで持っていたものとは明らかに系統の違うものであるが、非常に気に入っている。なにより一点モノだし、そのかっている手間が尋常では無いからだ。そしてかけられた手間にふさわしい見ごたえを持っている。

・Summary
 Benzingerは二年ほど前から非常に気になる存在であった。実物を持っているという人を全然知らなかったし(日本にあるのか?)、今回はほとんどWebだけの印象でオーダーに踏み切ったがとにかく想像以上に良い時計だと思った。Hentscelさん同様、人柄のよさがにじみ出ているまじめな時計である。このような時計師個人のキャラクターが反映されている時計と言うのは本当に持っていて飽きない。これ もまた長きにわたって時を刻んでくれそうである。

11.Jun.2006