<Jaeger LeCoultre Chronometre Geomatic>

ムーブメント
881G 5.5振動 自動巻き
サイズ
36mm
材質
SS
バンド
純正黒アリゲーター
その他
クロノメーター

「Jaeger LeCoultre Chronometre Geomatic」
〜JLC自動巻きマスターシリーズのオリジン〜

・Introduction
 E399Chronometre Geomatic。現在はマスターコントロールシリーズとしてラインアップされている自動巻きの、紛れも無い元祖といえる時計である。さらにそのルーツといえるのが手巻きのGeophysicであることは言うまでも無いが、International Geophysical Yearのグラフィックシンボルである地球をかたどったイメージは、当のGeophysicにはどこにも無く、このGeomaticのケースバックのメダルとして始めて登場している。これは現在のマスターコンプレッサーまで含めて引き継がれている、マスターシリーズの高精度を示すメダルである。今のJLCの丸型時計全ては、このメダルから始まっているといっても過言では無い。

Geomaticシリーズのアウトラインを調べた限りで記す。リファレンスは、E398, E399, E398/1, E399/1, E560の5種類が確認される。

Ref.
ケース材質
製造本数
Movement
製造年
E398
YG,RG
YG1100,RG773
Cal.881G
1962〜1968
E399
SS
1700
Cal.881G
1962〜1968
E398/1
YG
478
Cal.883S
1969〜1971
E399/1
SS
300
Cal.883S
1969〜1971
E560※
YG
165
Cal.881G/883S
1962〜1971
Total
YG,RG,SS
4516
Cal.881G/883S
1962〜1971
※E560は角型ケースモデル。
 Geomaticと名のつく時計をトータルで見れば4516本ということになるが、レアであることは間違いない。個別のモデルを欲しいとなると相当苦労するだろう。
 リファレンスに/1がつく後期型モデルは製造本数からするとよりレアであるが、ラグの形状などが前期型に比べ流麗ではなく感じられ、個人的にはE398/399の方が好みである。
なおGoldモデルには多くのバリエーションがあり、相当あくの強いダイヤルのものもある。ダイヤル・ハンドなどの組み合わせを細かく見ていくと、相当な種類に上ると思われる。

・Outside
 非常にシンプルなデイト付き中三針モデルであるが、実に自動巻きらしい魅力的な形状をしている。この時計は、自動巻きであるが故にここまで魅力的たり得るのだと真剣に思っている。どういうことかと言うと、全回転自動巻きの機械は、一般的に手巻きよりも厚い。この時計に収まったCal.881Gも手巻きのCal.450(t=4.5mm)などよりも当然厚い。そこで、この厚みのある機械をどのようにケースに収め、ダイヤルとケースバックでサンドイッチし、どのようなラグを与えて手首にどう座らせるか?というのがデザインのキモになるわけである。
 デザイナーはこう考えたのではないか?ケースバックとダイヤルを上手くボンベさせ、あまり厚みを感じさせないようなすっきりとしたケースサイドにしよう。手巻きの竜頭ほど大きくない竜頭でも自動巻きゆえ過不足無いはずで、薄めにしたケースサイドとのマッチングも悪くないはずだ。肝心のラグだが、ケースサイドの中心線が若干手首よりも浮き気味になるのは否めないので、下げた形状にしたい。しかしいきなり下げると優美さにかけるので、伸びやかなラグを与えて手首の座りも確保すれば優美な印象になるのではないか?
 以上は私がこの時計を目にしながら勝手に想像したことを書いたまでで、全くデザインプロセスは異なるかもしれない。しかし、とにかくこのようなバランスの時計がプロダクトとして生まれた事は事実なのだ。
 そんなわけで、この特徴的なプックリとした表情豊かなダイヤルは自動巻きならではであろう。光の加減で様々な表情を見せる仕上げも秀逸で、この時計の最大の魅力はこのダイヤルであると信じて疑わない。ソリッドな印象であるがどこか暖かみのある形をしているのだ。アプライドのインデックスも非常に綺麗であり、湾曲したダイヤルの外端部に位置しているため加工精度も高いものを感じさせる。デイト位置が若干内側にあるのは、881Gが11.5リーニュと少し小さめな機械であることを認識させるが、これが湾曲したダイヤルのより外周近くにあったとしてもバランスは崩れるであろう。針はいわゆるペンシルで、シンプルであるが袴近くが細くなっており、単に打ち抜かれただけでなく手間がかかっていることが分かる。それに比べてセコンド針は全くシンプルだ。針の長さについては、インデックス中ほどまで届いたミニッツと、それに比べて随分と短いアワーハンド。この比率はVacheronにも通ずるほどコントラストがある。針のデザインがアワー・ミニッツと全く同じで、長さでのみ区別している故であろうがこれは好きなポイントだ。ミニッツハンドがもう少し長ければ言うことが無いが。
 ケースは、ポリッシュされたSSである。当てキズなどもほとんど無く状態はエクセレントだ。そして、ダイヤルと同じくもうひとつのハイライトはその流麗なラグの形状である。これはケースサイドから見ると特に顕著に感じる。繊細で非常に伸びやかなラグを持つ薄いケースサイドからプックリと飛び出たプラスティック風防、メダルつきの若干厚めにボンベしたスクリューバックというのがこの時計の構図である。自動巻きの機械ゆえにこの時計のバランスが生まれ、このようなエクステリアをもつに至ったわけだ。同じChronometreでも手巻きのGeophysicとは決定的に違う味を持っているGeomatic。兎に角魅力的だ。

・Inside
 残念ながら機械と対面したことは無い。この時計は手持ちのスクリューバックオープナーでは開かなかった。無理して開けるつもりも無いので資料を見ながら語るにとどまる。
 機械はCal.881のクロノメーター版である881G。881との差はトリオビスの有無と、石数の増(17j→23j)、調整といった内容である。両方向自動巻きのスイッチングロッカー機だ。直径×厚さは26mm×6.14mmと厚い。この系統の初出は59年と思われ、ファミリーは以下の通りだ。
Cal.880:自動巻き17石。5.5振動。ハックつきが880S。直径×厚さは26mm×5.77mm。
Cal.881:880にデイトがついたモノで17石。
Cal.881S:881にハックが付いたモノ。
Cal.881G:前述のようにトリオビスが付いて+6石したモノ。もちろんハック付。
67年には883Sになるが、881Gと比べてスペック上の違いは無い。詳細は不明。
 なお67年には名機888(→889,900)が誕生している。勝手な想像だが888系と部品共通化を計ったモノが883というのが私の推理である。
 さてこの880系は写真で見ても結構地味な機械で、チラネジ・スワンネック無しと俄かヲタをがっかりさせるような仕様かも知れないが、逆に当時モノメタルテンプでクロノメーターを実現し、しかも両方向自動巻きを実現したことは結構革新的だったと思われる。時代の最先端であったはずだ。しかもスイッチングロッカーで、高級機たるゆえんはまさにここである。おそらくスイスエボーシュでスイッチングロッカーを最初に量産したのはJLCで、この880系が最初では無いかと思っている。そのなかのクロノメーターである881Gは、歴史的な名機だと勝手に思っているわけだ。なおこれのルーツはバンパーのCal.812となるはずで、それと同時に全回転機構としては、57年よりVC(APにも)に出していたCal.P1019(JLC493(9.5リーニュ)ベースに自動巻きブリッジを付加したもの。PP12-600などと素性は一緒)であると思われる。これがJLC初の両方向自動巻き機械である。
 話がキャリバーの歴史に飛んだが、この機械はスイッチングロッカー特有のチリチリとした非常に繊細な音をたてて軽やかに巻き上がる。巻き上げ効率はものすごく良く、つけているとメインスプリングはほとんどいつもパンパンの状態だ。
 デイト機能は12時を前後させることで早送りできるもので、JLCには珍しい。なお精度はル・サンティエでO/Hしただけあって、冬場で日差+3秒前後と完璧である。

・Summary
 JLCのChronometreの双璧でありながらGeophysicとはかなり印象も性格も異なる時計がGeomaticである。バンパーから両方向に進化した直後でありながら、今でも全く日常使いに問題ないほど完成度が高く、さらには当時の高精度を維持している。最近では評価も高くなりなかなか市場では見なくなったが、JLCマニアならやはり手に入れたい時計であろう。

17.Jan.2007