<Vacheron & Costantin Chronometre Royal>

ムーブメント
P1007/BS 5振動 手巻き
サイズ
35mm
材質
YG
外装
フルオリジナル
バンド
純正黒アリゲーター
その他
クロノメーター+ジュネーヴシール

「Vacheron & Constantin Chronometre Royal」〜究極の手巻き〜

・Introduction
 バセロン&コンスタンチンのクロノメーターロワイヤル、スモールセコンドである。JLC449/450系が私の大好きな機械であることは Geophysicを褒めちぎっていることからも明らかであるが、P478BWSbrとともにJLC449/450系の最高峰であるV&Cの P1007BSにも手を出した。これは以前から欲しかった時計であり、なかでもこのスモールセコンドのものが全く理想的であった。理由は後述する。
この時計は私にとっての初めての雲上時計でもある。
(時計趣味10年以上になるのに、なぜか三大には縁が無かった私。)
V& C(年代的に&があるのであえてこう略させていただく)のChronometre Royalは、その起源は懐中時計であった。主に南米向けの22ライン(それより小さいものもあるが)の懐中時計群がそれで、当時最高の品質で作られたものであり、今も南米からebayあたりに出品されているのを良く目にする。Patekのクロノメトロゴンドーロと向こうを張るロワイヤルであるが、まだ Patekに比べ比較的リーズナブルな値段で手に入る。さて"Chronometre Royal"は1907年に商標登録され、1908年、初めてこの名前を冠したこの懐中時計がV&Cからリリースされた。それから四十数年後、腕時計へと形態を変化させて再度市場に登場することになった。それがこの手巻きChronometre Royalである。

・Outside
 手巻きRoyalの初出は50年代初期と想像され、スモールセコンドとセンターセコンドがある。手巻きモデルは文字盤に「Chronometre Royal」銘が無いものの方が多い。なのでこの外見からこれがRoyalだと気がつくのはVacheron通であろう。Royalかどうかの判断は、一番分かりやすいのはケースバックにChronometre Royalの彫があることだ。
 ケースには、少なくとも三種類以上ある。ここに掲載するものが私は典型的なロワイヤルケースと認識しており(このケースでロワイヤルでは無い物もあるからややこしいが)、あとはSteveG氏のPatek似のもの、ラグがストレートでベゼルも厚いものも確認される。私の個体は見てのとおりで、この三角ラグの造形が実にV&Cらしいと感じている。Patek派にはSteveG氏の個体のケースのほうが響くであろうが、私はどちらかというと無骨でどこか王道を外した(ロワイヤルなのに・・・)このケースが好きである。
 
18KYGのケースはスリーピースで、スナップバックだ。このケースの形でスクリューバックのものもあるようだが、前期型がスナップバックで後期にスクリューに変化したのでは?と想像している。コンディションはそこそこで、結構使われている感じがする。この三角ラグは実は結構複雑な形をしており、横から見るとなかなか伸びやかである。ラグは残念ながら磨かれているが、エッジはまあまあ残っている。
 ダイヤルは古の最高級品で、V&C GENEVEの文字も浮き出ており、所謂エナメル象嵌である。V&Cでも60年代になるとこの製法の物はあまり見かけなくなるし、Patekなどでも同様と思われる。象嵌については全く詳しくないのでぜひ賢者の認識を教えていただきたいが、金のアプライドインデックス以外のロゴ、インデックス全てが、ダイヤルに金属を埋め込んで表現し、その上にエナメルをかけた結果、このような浮き上がったロゴが実現するものだ。あまりに繊細な仕事ぶりとその仕事の完成度は凄まじく、そのような技法がこのダイヤルに施されているとは、およそ人類の技とは信じがたいほどだ。現在ではこのようなダイヤルを作る技術についてはもはや失われているとか、やっても法外なコストがかかるため有り得ないとか聞くが、60年代半ば以降の時計ではほとんど見られなくなるのも事実である。程度の良い象嵌エナメルのダイヤル、これだけで工芸的な価値があるような気がする。これにに金無垢のアプライドインデックスとは、なんという贅沢で手間のかかったダイヤルであろう。まさに雲上である。
 キズミでみれば小さなキズは確認できるが、ダイヤルの全体的なコンディションはGoodである。このダイヤルに関しては、ケースとの関連もあるがロワイヤル全体ではスモセコ・センターセコンドの区分をせずに考えても、少なくとも5種類以上確認される。一般的にはこのようなインデックスだが、36912のアラビアインデックスも存在する。
 ハンドはアルファハンドだ。V&Cといえばハンドのイメージはリーフかバトンだが、腕時計のロワイヤルには伝統的にこのアルファあるいはダウフィンが使われていることが多いようだ。98年(Royal90周年)に出た最も新しいロワイヤルオートマチックもこのアルファハンドを採用していることを鑑みるとロワイヤルはこれ、とV&Cも認識していると思われる。ソリッドゴールドでとても重厚な作りだ。スモールセコンド針の造形も見事で、非常に細く繊細であり、針の出来に関して文句は一つも無い。またV&Cの魅力はその分針の長さ、時針の短さ、そのバランスにあると思う。やはりインデックスの外端(アプライドインデックスではなくさらにその外周の目盛)まで届く伸びやかな分針は見ていて気持ちが良いものだ。風防はプラで、おそらくオリジナルであろう。このコンディションも悪くない。
 兎に角、ケース、ダイヤル、針とV&Cらしさ、ロワイヤルらしさを主張している。全てのクオリティが高いのは当たり前で、やはり惚れ惚れする。格の違いを感じるのはさすが古の三大である。何が違うのかといえば明言できないが、全てのパーツのクオリティが高く、それらが調和してかもし出す雰囲気から言葉にしがたいオーラを感じるのだ。

・Inside
 機械は、P1007BSという。これの原型はJLC-Cal.449であり、VC仕様にチューンされCal.453となる。さらにJLC- P478BWSbr、JLC-P488Sbrと同じくストップセコンド機構が付加され、さらに1石多くなってこの機械となる。センターセコンドの機械は JLC450がベースでVC454にチューンされ、さらにロワイヤル用のものは1石加わってP1008BSと名を変え、P1007BSと同様ストップセコンド機構が付加されている。
 私がスモールセコンドにこだわったのには理由がある。手持ちの478BWSbrがセンターだということもあるが、もう一つは出車のツツカナ抑え板に関する理由による。非常に細かく、かつどうでもいいような話ではあるが一応記載すると、V&Cの454/5Bや 1008BSは、オリジナルはこの抑え板がソリッドゴールド製であった。当然のことながら、SUSなどに比べて耐久性そのものは劣るはずで、実際に抑えた部分が出っぱってきた後に、最終的には穴が開くと言う経年変化を見せる。そこでVCに戻った個体は全て新品パーツが取り付けられて持ち主に戻るが、もはや純正のゴールドパーツはVCスイスにも在庫無く、変わりに今ではJLC用のSUSパーツがついて帰ってくるはずである。それで何ら問題は無いのだが、オリジナルにこだわるのならここがソリッドゴールドのパーツが残っているもの、ということになるであろう。実際にいくつかの時計を見ると、SUSとGoldが混在している。で、そんなことを気にしたく無い(知らなければどうでも良いことであるが、知ってしまうと気になるかもしれない)私には、1007BSがベストなのである。
 いきなり細かい話になってしまったが、この1007BSという機械はさすがに超絶な仕上げで、おそらく私の持つ時計の中ではベストであろう。 JLC449というものすごく素性の良い機械を究極に仕上げ調整したものではあるが、正直機械そのものにあまり面白みは無い。当たり前のスモセコ輪列だし、ブリッジはV&Cの意匠になっているがそれゆえ古の懐中の機械がサイズダウンされただけである。要するに何から何まで王道で、そのなかの最上級なのだ。巻き心地は449系の標準的な感じであり、Geophysicとほとんど変わらない。歯車の仕上げのレベルが違うためもう少し感覚が違っても良いように思うが、ほとんど一緒である。竜頭のサイズはJLCの方が若干大きいためかもしれない。機械そのもののコンディションは、残念ながらエクセレントとは言えない。スナップバックケースであることも一因であろうが、一度ジュネーヴに送り返したいと思っている。
 見所はあちこちあるが、私は特にアンクルの磨きが凄いと思った。良く目立つブリッジや緩急針まわりは無論のこと、全てにわたって手抜きが無いのはさすがである。V&C1940年代のアトリエ風景の写真などを見ながら、まさにこういう環境から出てきた機械であると改めて実感するのだ。なおジュネーヴシール付きでクロノメーターを名乗るVintage時計は、実は非常に稀有である。
 音は、これも大きい。478BWSbrよりもさらに高い、キンキンという音がする。ベースが同じ機械とは思えぬほど音質は異なっているが、これは 478は軟鉄の耐磁インナーケースで高周波成分が消されているためかもしれない。音はあまりに高くキンキンしているとかえってETAっぽく感じてしまうのだが、これは5振動であるため余韻を感じる間がある。

・Summary
 名前のとおり王道中の王道時計であり、かつGeophysicと同じようにRoyalはやはり個体数の少ない時計である。このスモールセコンドのモノはとりわけ少ないようだ。ある資料によるとクロノメーターロワイヤルは1952年から1962年の間でわずか479本のみ(スモセコとセンセコ合わせて)製作されたとある。なんとGeophysicの1/3程度だ。それは見ないはずである。
449系の究極時計の一つであるこれを手に入れたと言うことは、かなり時計道の終焉に近づいていると思っており、区切りの時計の一つとなるであろう。これからどこに向かうかは神のみぞ知る、である。(Patek逝くか複雑系逝くか、AHCIに逝くか?それともユルい時計を買ってアガるのか?)

補足:ロワイヤル雑感
 Chronometre Royalは手巻きの1007BS/1008BS以降、60年代にオートマチックに進化する。機械はやはりJLC製のCal.1072である。これは同じくJLCのCal.920とともにJLC銘の時計には搭載していない機械であり、グレード的にも雲上クラスである。しかし920系に比べかなり短命に終わった機械らしい。製造はおそらく5〜6年間程度なのでは無いか?ローターは重厚なソリッドゴールドで、ローター中心部には4つのルビーがあり、これでローターを支えている。回転効率は高いのだがその重いローターを支える機構には耐久性に弱点があった、と手持ちの資料には記載がある。またロワイヤルに搭載された1072は、454→1008BSのようにハック機構が付加されてCal番号も変化したのとは違い、ロワイヤルオートマチック以外の時計にも普通に1072は搭載されている。そのため機械そのものには変化は無く、もしあるとすれば調整がよりなされていた程度では無いか?と捕らえている。1072は魅力ある機械であることは間違いないが、ごく個人的にはその後のJLC920→VC1120(AP2120)のほうがより魅力を感じるオートマチックである。(この機械の魅力を書けばきりが無いので、いつか入手することがあればその時に。)1072ロワイヤルはケースもかなり特徴的でラグが大きく、この顔は好き好きであろう。3年くらい前には松坂屋のフェアでWGモデルを70万前後で目にした記憶もあるが、最近少なくなっている気がする。なお手巻きロワイヤルは元々少ないため、国内の販売店で実際に目にした事は無い。私の個体は独逸からやってきたものである。
 話は変わるが、Introductionに書いた通りRoyalは1908年にこの世に出た。そう、2008年はRoyal生誕100周年なのである。90周年でも忘れずにRoyal Automaticを出したVCなので非常に高い確率で2008SIHHでは新モデルを出してくることと思う。希望としてはリヒャルトランゲばりの重厚な新開発機械を積んだ、ただの三針時計(当然日付無し)を威風堂々と発表して欲しいものだ。

21.Oct.2006
08.Mar.2007修正