むいみつづり
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05

にんじん水栽培  なんとなく痒いような気がして肩を掻いているうちにめりめりと皮が剥がれてきた。垢をよる要領でこすると皮膚はひも状に剥がれ、その下のつるつるとした新しい表面に指が触れる。めりめり。めりめりめり。
「一皮剥けてイイ女になりましたぁ」
長く剥けた一片を男の目の前でそよがせてみる。
「やめろ。気持ち悪い」
男は短くなった煙草を原子力マークの灰皿に押し付けながら吐き捨てるように言った。
「やめろ。きもちわるい」
私は小さく繰返す。
「やめろ。きもちわるい。そんな言い方……」
「なんだよ」
「前は、なさいませんでしたわよね」
「前? ああ、そうだったかもね」
 駄目だ。この男ももう期限切れだ。
 男の人は、シェアウェアのようなものだと思う。一定期間は、無償で優しい。けれど、その期間が過ぎれば有償である。代償がなければ、優しさも便利さもかっこよさも何一つ続いていかない。いくら無償の愛をどばどば注いでいるつもりでも、それだけではいけないらしい。
 例えば料理を作ってあげるとか、部屋を掃除してあげるとか、男の帰りを裸エプロンで迎えるとか、そういった時給900円もらってもお断りしたいような労働力と引換えにしなければ、恋愛とやらは続いていかないらしい。
 私は男のおでこをちょいちょいとつついてみる。
「なんだよ」
「マイコンピュータ……コントロールパネル……アプリケーションの追加と削除」
「あ?」
 しかしこうやって削除してしまったところで、ゴミみたいなファイルがちまちまと残って不具合を引き起こすに違いないのだった。

2003/08/31