むいみつづり
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08

学食の椅子  学食の値上げは、痛い。たとえ一日あたり30円であっても、それが一か月分となると、少なからず生活費を圧迫することになる。
 280円から310円になってしまったきつねうどんをすすりながら、アルバイトの給料日までの日数を数えてみた。……痛い。

「こんにちは」
エリック。今日のお召し物はアニエスb.のTシャツとスリムなパンツだ。コンビニの袋を片手にぶらさげている。
「隣座っていいですか?」
「どうぞ」
エリックは袋の中からおにぎり二個とタピオカミルクを出しながら、私の隣に座った。
「この前は、チケットありがとうございました」
「いいえ。聴きにきてくれてありがとう。嬉しかった」
 同じ文学部日本語日本文学科ではあっても、対照言語学を研究する院生のエリックと、二回生で近代文学志望の私には、あまり接点はない。偶然、同じ教養の授業を取っていた。いつの間にか挨拶ぐらいはする仲になっていたけれど、ランチをご一緒するのはこれがはじめてか。エリックは私にとって、相変わらず謎多き人物である。
「ウェ。これ不味いね。絶対生産中止になるよ。不味すぎてはまっちゃう。」
タピオカミルクを飲んで、エリックが言う。この人は、本当に読めない。
「二胡は、子供の頃から練習なさってたんですか?」
「日本に来る少し前から。上手いでしょう?」
「ええ…とても」
「子供の頃からヴァイオリン習っていたから、弦楽器はだいたい弾けるよ」
「すごい」
「あとで聴かせてあげる。夕方、私の部屋に来て」
彼はにっこり笑うと、その綺麗な顔からは想像もつかないような勢いでおにぎりに噛りつき、一個あたり二口で食べきった。
 彼の斜め後方30メートルの位置から、彼のファンたちがすごい目で私をにらんでいた。

2003/09/18