むいみつづり
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ピンヒール  文芸創作授業、履修表によれば「近代文学演習W」の履修者は20名。見た目で分けると半分がオシャレガァルで、半分がオタク少女。作品の傾向も、見た目とほぼ同じと思っていい。
 すなわち。
 かっこよさそうな言葉を雰囲気だけで連ねてオリジナリティのかけらも無いオシャレガァルたちと、冒険小説・青春小説の名の下に、ヤオイと呼ばれる女性向けホモ小説を書くオタク少女たち。
 この田舎の三流女子大学に才能に溢れた人間がそうそういるとは思えないから、程度が低いのは、まあ仕方のないことだけど、そんな中に、我がいとしの香奈姫様がいるというのは、自分としては耐え難いことだった。

「香奈ちゃんは、もっとレヴェル高いと思うよ。あんなコたちと一緒にやんなくても…」
 ベツレヘムカフェのマガジンラックから引き抜いてきた左翼雑誌をながめながら、香奈姫は静かに微笑んでいる。
 姫の書く作品のジャンルは、短歌。好きな歌人は与謝野晶子、寺山修司、福島泰樹、山崎方代。過激であり渋好みであり、今どきの女子大生には珍しいタイプだろう。香奈姫の作品もまた、俵摩智の焼き直しみたいな凡百のアマチュア女性歌人とは違って、ビシッと筋が通っている。
 鋲付きの革ジャンに、トレヴァー・ブラウンの邪悪猫柄タンクトップ。切りっぱなしのデニムスカートからは、黒いガーターベルトが見えている。見た目はロック少女だけれど、教授やシスター達には礼儀正しい態度で接するし、授業もわりと真面目に出ているらしい。昔風の文学少女に野良猫の皮を被せたような、香奈姫はそんな女の子。
 雑誌に一通り目を通し終えると、姫は鞄の中から原稿用紙の束を出した。
「まわりのレヴェルとか関係ないと思うんだ。そういうの、よくわかんないし。私はただ、いっぱい作るだけ」
「すごい……これ全部新作?」
姫は照れくさそうに笑う。
「好きなんだ。作るのが。いいもの出していきたい。それだけ」

2003/10/05