むいみつづり
<< top
15

ビディ  Paradise BIDIS vanilla. Made in India. インド製の、葉巻煙草。
 葉巻といっても、ハリウッドスターが社長椅子にのけぞってふかすような立派なものではなく、普通の紙巻煙草よりも細く非常に安価。みみっちい代物である。インドの庶民ですら吸わないが旅行者には人気なんだと、一昨日カルカッタから帰ってきた友人は言った。
 青い包装紙を破いて、中から一本を取り出す。そこらへんの柿の葉か何かで巻いたような、原始的な姿。吸い口が細く、先に向かって太い。フィルターは勿論ついていない。ささやかなサーヴィスのように、少量の綿が巻き込まれているのみ。ヴァニラフレイヴァーとは名ばかりの、お香のにおいがする。
 唇に当たる枯葉の感触に違和感を覚えながらも、火を点けてみた。
 煙い。
 焚き火だ焚き火だ落ち葉焚き、だ。
 深く吸い込むと、肺胞のひとつひとつが痛む。恐ろしい勢いで襲い掛かる煙に辟易しながらくゆらせていると、口の中が粘り始めたような気がしてきた。本当にどこがヴァニラなのかわからない。ホットペッパーの間違いではないのか。舌先がピリピリと辛い。唇を舐めると、これまた辛い。シャツの袖口で拭ってみると、見事なヤニ色に染まった。――生まれて初めてフィルターのありがたさを知った瞬間だ。
「どうだ?」
友人は、いたずらっぽい目で誇らしげに聞いてくる。すごいだろ、と言わんばかりに。
「どうって……、酷いね。これ」
「酷いとは酷い言い様だな。……効いてこない?」
「効く? このピリピリのこと?」
「いや」
「効くも何も――
言いかけた途端、奴の言葉の意味がわかった。頭の芯がぐらりと揺れたのだ。
 私の表情を見て、友人はにんまりと笑った。
「そいつはただのBIDIじゃないの。ほんの少ぉし、入ってんだ、アレが」
 眩暈に抗ってベンチを立つ。辛い唾を吐き棄てた。
「趣味が悪いよ、あんた」

2003/10/08