むいみつづり
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チーク  ちゃぶ台に化粧道具を広げて楽しそうに顔を作っているミネコを、僕は寝たふりをして観察している。
 年の割に幼く見える素顔からファンデーションを塗ったお面みたいな顔に変わり、眉が描かれて凛々しく、アイシャドウを塗られて艶っぽく、睫毛がビューラーで押し上げられマスカラで固められて愛くるしく、チークとハイライトで立体的になり、最後にルージュが引かれて、完成。
 ミネコはお化粧が上手い。出来上がった顔はまるで別人だ。どちらの顔が好き、ということはない。両方好きだ。アイラインを太く引いたり、眉を半分までしか描かなかったりしたときの、いつものメイクとは違う顔も、全部良い。
 まるで小さな後宮を持っているようだ、と思う。貞淑そうなミネコ。わがままミネコ。コケティッシュなミネコ。ミネコが何人もいる後宮の、僕は主。スルタンだ。皇帝だ。将軍様だ。どのミネコも等しくいとおしい。僕は幸せだ。
「ヒロト?」
 ミネコは突然僕の方を向いた。何か気まずくて、慌てて目を閉じる。
「ヒロト、起きてたでしょ?」
僕は寝たふりを演出するために、軽くいびきをかいてみる。
「私、出ていくからね」
 何時に帰ってくるの? 聞きたいけれど、僕は寝ているのでしゃべってはいけない。ミネコが続きを言うのを待った。布団の中はあたたかくて、気持ちよくて、まぶたの裏側に綺麗に化粧したミネコの顔を映して楽しんでいるうちに、僕はいつの間にか眠ってしまった。
 そして。
 ミネコは帰ってこなかった。その日も、その次の日も。

2003/11/26