むいみつづり
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名刺  昔のバイト先の上司から、臨時のアルバイトが入った。いわゆる、パーティ・コンパニオンだ。
 旅館の土産物売り場、イベントの着ぐるみ、会場設営、年賀状の仕分け、家庭教師。いろいろやってきたけれど、水っぽいおシゴトは、これが初めて。
 言われた時間の15分前に、派遣会社に行った。古ぼけたビルの二階が、その事務所であるらしい。
 一階の階段の前で躊躇していると、ライトバンから顔を出した初老の男が、「ご苦労さんです」と言った。男に促されて、私はその階段を上った。彼はコンパニオンを送迎するのが仕事なのだろう。酸いも甘いも噛み分けた、といった顔つき。
 事務所の中へ入ると、50代らしき女性と、彼女より一回りほど若そうな80年代風ソバージュの女性がいた。二人とも忙しそうに電話をかけている。
「あの、……伊藤ですけど」
50代らしき女性、名札によると「代表取締役社長・内田富美子」氏は、電話の相手を軽くどなりつけてから、私の顔をまじまじと見た。
「ヒトミサンの紹介の人?」
私はヒトミサンという人を知らない。元・上司の知り合いなのだろうか。
「伊藤です。河内さんにお話をいただいたんですが」
「ああ、伊藤さんね。じゃ、そこから名札一枚取って、栓抜き持って着替えに行って。着替えはこの上」
受話器に耳をつけたままでそれだけ言うと、社長はまた電話の相手に向かって吠えた。

2003/12/08