むいみつづり
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コンパニオンさん  名札に書かれていた名前は「くみ」。これが今日の私の名前なのだろう。
 コンクリート打ちっぱなしの寒々とした階段を上ると、衣裳部屋がある。開きっぱなしのドア。足元にはブーツやらミュールやらパンプスやらがだらしなく脱ぎ捨てられている。
 私は靴を脱いで、隅の方に置いた。これだけ靴が多いと誰のものかわからなくなりそうだけど、私のULTRA T.K.Dに関して言えば、間違えられる恐れはまずあり得ない。ヒールの高い靴の中で、底の薄いテコンドーシューズは明らかに浮いている。狭い畳の部屋の、壁側に着物のハンガー。窓側に小物類の引き出し。あちこちに段ボール箱があって、そこにも衣装が入っているらしい。同世代の女の子達は巻き髪にアイラインくっきりのいわゆる「オネェ系」。年嵩のお姉さんたちは、いかにもお水の花道を邁進してまいりました、という風情の、疲れた顔をしている。畳にぺたんと座って煙草を吸う人、メイクを直している人、着替えている人。顔見知りの女の子同士は楽しそうにしゃべっている。ほとんどの女性が、おそろいの白いブラウスとタイトスカート。
「初めて来た子?」
年のころは30前と言ったところか。赤い口紅に、アップにした髪。スカートのベルトに丸っこい字で「マリ」と書かれた名札をつけている。(なるほど、名札はベルトにつけるのか。)
 私がうなずくと、彼女は足元のダンボール箱から膝丈のスカートを引っぱり出した。
「ブラウスはそっちの引き出しから取ってね。たぶんまだ出発は先だから、お呼びがかかるまで待ってて」
マリさんは、周りの女の子を数人呼び集めて部屋を出て行った。

 他の女の子たちは次々と出発していった。行き先は有名なホテルや料亭もあれば、まったく聞いたこともないような店もある。
 着替えて20分。事務所にいた80年代風ソバージュの女性が衣裳部屋に入ってきた。
「伊藤さんって人いる? 長江のお座敷に行って」

2004/02/10